親父のひとり言(6)

(昔を語ろう)part.3 鉄砲玉、モンブランを登る

その三 アルプス、モンブランのクレバスに転落の続き

前回の転落記について、其の後「モンブラン」を登ったのかと、言う問い合わせが何件もあったので、恥じかきついでに続編としてお知らせしよう(ケーキのモンブランは何回も食った、白いクリームに赤い苺が乗ったやつよね)。

クレバスに転落した一ヵ月後にリベンジで同じルートから「モンブラン」に登った。
計画はモンブラン(4,807m)、モンモディ(4,465m)、モンブラン・ド・タキュール(4,248m)の三山からエギュ・ド・ミディ(3,842m)に縦走する予定だった。

天候は2日朝までは好天で予定通りモンブランに登りモンモディに向った。

その頃からグランド・ジョラスにレンズ雲がかかっていたのを確認していたものの、何とかその日のうちにエギュ・ド・ミディに到着できる見通しだった。

しかし天候の崩れるのは我々のスピードよりも予想以上に早く、モンモディを通過する頃から雪となってモンブラン・ド・タキュールに着いた頃は全く視界がなくなって右も左も判らん状態になってしまった。トレースでも残っていれば行動したかも知れんが、それもなし。盲目状態で良く判らん地形での行動は禁物と、割り切り、結局、モンブラン・ド・タキュール頂上で穴を掘ってツイルトビバークになってしまった。

翌日も天候は回復せず動きようも無く、再度のビバークをする破目になった。(結果的に二晩だったか三晩だったか、
ボケの進んだ今、40年も前の事はどうでも良いことだが、我々のビバーク中、下界のシャモニーでは連日の雨だった事を考えると三晩だったかも知れない。そんな事で、あの日本人の馬鹿どもは、とっくに死んでいるに違いないとの憶測だったようだ)。

晴天到来と同時に俺達はバレブランシュの氷河に下降していった。途中でヘリコプターが我々に近づいて来たので手を振って応えた。このときは捜索飛行ではなく、国境偵察の為の飛行で、確認要請をしても費用は掛からなかったらしい。

氷河を横断してエギュ・ド・ミディの登りにさしかかったら、いきなり空腹感が襲ってきて、どうにも力が出ない。
俗に言う「シャリバテ」状態、確かに前日は殆ど何も食っていないのだから仕方が無い。ミディ、ロープウェイの駅から山岳警備のお巡りさんと思われる人が降りてきて、飲み物と食べ物をくれた。この人が天使に見えたね。

我々は優先的にロープウエィに乗せられ、シャモニーに帰ってきた。
またまた、落ちの付いた登山だった。

ヨーロッパ・アルプスの天候は日本と比較して実に大雑把。新聞に天気図が出ているがヨーロッパ大陸に高気圧が出てくれば数日の好天が見込まれるが、一旦、低気圧が出てきたら、数日間、悪天が続き、岩場にも降雪後の氷結が残り、一週間そこらは条件が良くならない事を、身をもって知った。

(行け行けドンドン」が仇となって、シャモニーに滞在中は、2回も警察の事情聴取を受ける羽目となり、」近藤等先生(ガストン・レビファーをはじめとする多くの山岳書の訳文を出されていて、夏休みはシャモニーのレビファーの山荘に滞在されていた)や多くの関係者に心配と、ご迷惑を掛けしてしまった。

登山は所詮、本人の楽しみよ、それで人に迷惑掛ける事は最低だね。豆腐の角でも、落石でも当たって死ねば良いんだよな。でもそう言う奴って、意外と、性懲りも無く生き続けちゃうんだよね。

俺の祖父も104歳まで生きたからこの際、俺も150歳くらいまで生きてみようか。でもよ、その場合120歳くらい若い坊主が生意気に俺に、お経を唱えるのかな。
などと馬鹿なことを考えたが、実は俺は神道、すなわち「坊主丸儲け」とは関係ないのよ。

昔からヤギと煙は高い所に登ると言われてきたが、それに山ヤサンが加わった。(山を売っている訳ではないので、基本的に「山屋さん」と言う言葉はあまり好かんね。さりとて「山師」も「ペテン師」の親戚みたいに取られるし、何か良い呼び方はありませんか)
山羊は登っても降りてくるが、煙は登りっぱなし、山ヤの場合、通常は降りてくるが、時として落ちて来たり、登りっぱなしになっちゃう事もある。
ハマッチまった頃は、石垣だろうと墓石だろうと、お構いなし、やたらと高い所に登りたがる。
親やカミサンに言われてもやめる事が出来ない、まあ一種の病気だろうね。
ある次元で治るものだが、治らん奴もいるし、何時、再発するかも解からん。ウイルスではないけども、感染する人もいる、これが「山気狂い」と言う精神病です。重症になると会社まで辞めて山に行ってしまう患者もいる。
現時点では治療薬もつける薬もありませんし、死んでも治りません。

以前にヒマラヤを登った人たちの集まりで、ある方が「皆さんには過去の栄光と、これからの絶望がまっています。」
と言ったスピーチを聞いたことがあるが、まさしくその通り、まあ良く考えておくことだね。

(記: 清水)

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