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雨飾山(1,963m)

2005.11.05(土)~11.06(日)

メンバー:(L)清水、飯田、塩足、和内

日本海は鈍色を帯び、空から降り注ぐやわらかな光を群青の波先にきらめかせ凪いでいた。海は静かに秋の終わりを告げていた。

11月5日(土)10:00、飯田さんと私を乗せたタクシーは親不知観光ホテルを発ち日本海を左に眺めながら北陸道をひた走る。

たった数時間前、私たちは冥界のような暗闇の中、栂海新道を黙々と歩き続けていた。山行の終焉に向かっていたのか、光を求めていたのか、そしてこの後に私たちを待ちうけるものは続きなのか、それとも新たな始まりなのか、タクシーの車内に射し込む暖かい陽射しにまどろみながら、軽い疲労と寝不足でさまざな思考が頭の中で混濁していた。タクシーは清水さん、塩足さんと合流する雨飾山荘に向かっていた。

11月4日(金)清水さんをリーダーに飯田さん、塩足さん、和内は23:33発の夜行列車に乗り、上野駅を後にした。翌5日(土)早朝4:45、糸魚川で清水さんと塩足さんが先に下車、後に合流する雨飾山荘に向かい、飯田さんと私は今夏に走破が叶わなかった白馬-親不知縦走の最後を完遂すべく泊駅で下車。タクシーで前回の惜敗の地、坂田峠から栂海新道に入りついに白馬-親不知の道を一本につないだのだった。

タクシーは次第に海から遠ざかっていった。うつつの中で、栂海新道を行く暗がりのモノトーンの世界と雨に湿った枯葉が放つ甘く香ばしい山の香りを思い出す。記憶というにはあまりにも生々しすぎた。

「これは完結したことなんだ。」

意識を過去から引き剥がし、次に視線を向けようと、私は重い瞼を開いた。

山は紅く燃えていた。山肌の炎を鎮めるかのように青天の空から霞がたなびいていた。景色のまぶしさに目を細める。

タクシーは山に深く分け入り一時間ほどで雨飾山荘に到着した。すでに清水さんと塩足さんが私たちを待っていた。

軽い食事と給水を済ませ、4人になった一行は11:25 雨飾山登山開始。

急登のうえ、露出した岩と泥道に苦戦。一歩一歩前進するたびにザックの重さを足と背中で感じる。

時折下山するパーティーとすれ違う。紅葉の見頃を過ぎたとはいえ、日本百名山だけあって人の往来は絶えない。私は相変わらずどん尻になり先を行く清水さん飯田さんとの間に距離がひらいてしまった。私のすぐ後ろには塩足さんが続き、私の怪しい足取りやストックの使い方、身のこなしに細やかなアドバイスをしてくださった。疲労と眠気で目が回る。完全にパーティーのペースを狂わせている自分に「八十里の時と同じだあ……..」と自己嫌悪。

日はどんどん西に傾いていく。急登の稜線が、日陰のガレ場がどこまでもどこまでも続いていく。だらだらとあちこちの々から垂れる無数のトラロープをつかむことすらしんどくなってきた。

「ほら見て」と塩足さんに促され振り返る。西日に映える山の色彩が空に淡く滲みだしていた。力強く発光する真昼のそれとは異なる時間の変化に、山の息遣いが聞こえてきた。私の息の方がもっと上がってたけど。

ぬかるみの道を進み、左手に中の池をみやり笹平に近づいていることに期待を膨らませた、が、行けども行けども笹平に至らない。  「ここで曲がれば…..」「ここを登りきれば!」 と何度も期待し、落胆。

ようやく笹平に到着したのが16:30だった。名前の通り、平地一面を笹薮が覆い、冷たい強風にあおられ葉が擦れ合う不気味な音が一帯に響き渡る。雨飾山頂はもう目と鼻の先だ。

日もとっぷり暮れ、我々は登山道の平らな場所をみつけそこで幕営した。

 

夕食は野菜カレーだ。付け合せはヤマゴボウのたまり漬の汁でほんのり黄色く色づけされたご飯とツナ。

とてもおいしかったが、私が特に目から鱗だったのが余ったゴボウ漬の汁の使い方だった。白米に汁を混ぜて炊くだけでほどよい塩味が加わり、ごはんを立派なメインに昇華させる。

鍋以外の塩足さんの隠し技をみた。

11月6日(日)風向きが昨夜から変わっていた。空を焦がすバラ色の朝焼けに「うわあ・・・」と心が躍り、テントから飛び出さんと腰を浮かした。すると、「ああ、天気が荒れる空だ。」「典型的だな。崩れるぞ。」と、残念そうに空模様について語り合う清水さん、飯田さん。

「あれ、空、見に行かないの?」と。塩足さんに言われ、「い、いいです・・・いいです」 

脳天気にひとりはしゃいで、ちょっと恥ずかしかった。

朝食を済ませ、早々にテントを撤収し、ザックを笹平にデポ。空身で山頂をピストン往復した。

強風吹きすさぶ笹平を6:50に発ち、山頂には7:00に着いた。

360度の大パノラマだった。目の前には北アルプスの雄大な嶺々が雨飾山の前に立ちふさがる壁のように連なる。

「あそこを夏、あなたたち歩いてきたんでしょう?」

眼前にある連峰の上を、人差し指で白馬岳から日本海の方向になぞりながら塩足さんは言った。

「えっ、そうだったんですか?」 本気でボケる私に「そうって・・・自分たち行ったんでしょう?」

ギラつく強烈な日差しにめまいを覚え、飲む水はすぐに汗となり、人の声に聞こえる虫の羽音に何度も惑わされたあの夏の4日間は今も鮮やかに記憶の箱の中にある。今、同じ道を違う角度から平面でトリミングしてみる。記憶が感情を吸い込みどんどん目の前の景色が2次元から3次元に膨らんでいく。飯田さんと共に歩んだ道が途方もない冒険だったことに今更ながら気がついた。

 

寒風はますます強さを増し、四方八方から山頂の私たちをいたぶる。石仏に別れを告げ7:15山頂を後にした。笹平でザックをピックアップし、7:30、雨飾荘に至る小谷温泉側の道を下り始めた。

「雨が降る前になんとか・・・」どんどん雲行きが怪しくなる空を何度も仰ぎ睨みながら落ち葉を踏みしめ、晩秋の雨飾山を下る。途中、冷たい風の中半ズボンで登る単独行の男性や10人強の団体さんらとすれ違う。昨今のブーム「きのこ狩り」をしている人もみかけた。何度もアップダウンを繰り返し、どんどん高度を下げる。途中休憩で飯田さんからブナの実をいただいて食べる。人間が食べるにはかなりのプチサイズだが、油を含んだ胡桃のような味わいは後を引く。

下り切ったのだろうか、平地が続き左側から川の流れる音が聞こえてきた。そこは枯れ草が茂り、湿地帯のように小川が無数に走り、木道を歩きながら、皆、脇に流れる小川の中に目が釘付けになった。

「岩魚だ!でかい!」「山女!」

次から次へと姿を現す魚たち。顔を上げると前方にはキャンプ場施設の建物がみえた。

「ああ、終わりなんだ。」

 

キャンプ場からは舗装道路が続き、脇の草むらにあけびを探しながら村営の温泉まで歩く。

私がみると、木々からぶらさがるものは枯葉やら蔓しかみえないが、清水さん飯田さんは何かを見出す。

常人を越えた眼力だ。生まれて初めて食べるあけびの味はほのかに甘く、種を咬むと渋みが口の中にひろがった。野趣溢れるスイーツだ。

 

眼下に村営の温泉がみえてきた。11:50、村営の温泉着。枯葉降り落ちる中、露天風呂で疲れをいやした。

帰りは雨の中バス停まで歩いたが、雨足が次第に強まり、途中の旅館でタクシーをひろうことにした。

降りそぼる秋雨に打たれながら歩いていると、一陣の風の中に黄色い葉が鎖のように連なり、絡み合いながら空一杯に拡がり舞った。

雨飾る美しい光景だった。

(和内 記)

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