北鎌尾根、単独トレーニング

日程: 2007年8月25日(土) – 26日(日)
山域: 槍ヶ岳北鎌尾根(北アルプス)
参加者: 坂田
行程:
第1日目: 上高地(6:30) – 横尾(8:10/8:20) – 槍沢ロッジ(9:15/9:30) – 水俣乗越分岐(10:04) – 水俣乗越(10:47) – 北鎌沢出合(12:15) – (ロスタイム) – 北鎌沢二俣(16:15) – 北鎌のコル(18:28)
第2日目: 北鎌のコル(5:30) – 独標(6:40) – 槍ヶ岳山頂(10:40/10:50) – 肩の小屋(11:20) – 槍沢ロッジ(13:00/13:05) – 横尾(13:58) – 徳沢園(14:40/14:50) – 上高地(15:49)

Kitakama1 新宿駅23:00発のさわやか信州号で上高地へ。前々日の予約で3席ほど空いていた。前日も前夜発で西ゼンを遡行したため、かなりの寝不足感に襲われていたにも関わらず、ほとんど寝付けなかった。

北鎌尾根にはまだ登れず仕舞い、無積雪期に登ってもつまらないとは聞いていたが、自分の実力を知るトレーニングとして、あるいは積雪期のために全体像を把握する上では良いんじゃないかと思って計画した。

北鎌尾根へ取り付く主なルートは3つ。

1. 湯俣から水俣川をたどり、p2から取り付く。
2. 大天井岳から貧乏沢を下り、北鎌のコルから取り付く。
3. 水俣乗越から天上沢を下り、北鎌のコルから取り付く。

歴史的あるいは積雪期偵察の観点からは1.を選択したかったのだが、体力勝負の2.と共に2日間では厳しいかもしれない。自ずと3.のルートを取ることとなった。これは比較的新しい(恐らくメジャーになったのは2000年代に入ってからの)ルートであり、入山と下山が同地点であることも単独行には有利だ。

8月25日(土) 晴れ

バスを降りると寒い。出発前の東京はあれほど暑かったというのに。寒さに弱いので からなかなか出られない。心積もりより30分遅れの6:30に出発となった。テントを担いではいるが、ガチャが少ないので昨夏に久世さんと屏風を登るために横尾まで歩いた時よりも随分と楽に感じる。スピードの割に汗をかくこともなく横尾まで。横尾からはさすがに暑さを感じるようになったが、水俣乗越分岐までは快調だ。大曲には道標があり、分岐を見逃すことはない。水俣乗越への登りはさすがに疲れた。休みたかったが、日当たりが良すぎるのでさっさと天上沢へと下る。踏み跡がしっかり付いており、このルートを取るパーティの多さが伺える。気付くと北鎌尾根が一望出来る。後ろから単独の人が降りてきた。抜かれまいぞとする悪いクセが出てきてしまい、目指す北鎌のコルを確認しつつ、ほとんど滑り降りる。天上沢との出合い付近にはまだ雪渓が残っていたが、避けられる程度の規模だ。天上沢は水が流れていたが、すぐに伏流水となり、ガレ場というか河原をひたすら歩くこととなる。6人パーティ(多分ガイド)に出くわす。一人だけ荷物がでかいが、おっちゃん・おばちゃん達はえらく軽装だ。北鎌沢出合いがすぐに分かるかどうか不安だったが、ケルンが積まれていたので問題なかった。貧乏沢の谷間が遠くからでも確認出来るので、行き過ぎてもすぐ分かると思う。北鎌沢にも水が流れていない。ここでふと気付いたのだが、水がない!?麦茶を1リットル持っていたが、途中で100cc程飲んでしまっている。雪渓のところまで戻るなんて面倒だし、今日400cc、明日500ccでしのごうと決め、食事は全部行動食でいいやということにする。

ここまでは想定タイム通り、順調すぎるほど。しかも北鎌沢は途中から水が出ている!ラッキ~。たらふく水を飲み、大満足。ところがこの先に罠があったのだ。取り付いていたのは北鎌沢右俣だとばかり思っていたが、違っていたのだ。正確には入渓点は正しかったのだが、途中に二俣が存在し、これを右側へ行かなければならないということに気付いていなかった。川幅の広い左俣をどんどん詰めてしまい、でかい雪渓にぶち当たった。谷は深く、所々スノーブリッジが細くなっている上、傾斜があるので取り付くにはかなり勇気がいる。トレースを探してみたが見当たらず、誰も入っていないようだ。ここで誤りに気付く、こっちは左俣ではないかと。ここまで登って来たのに悔しい~そうや、この右手の尾根を乗り越えたら右俣に行けるんちゃう?ということで猛烈な藪こぎを開始。昨日の西ゼンで傷ついた腕がまた…。これが以外に時間を食い、タイムリミットと考えていた15:00になり、まだ先がありそうだし、目の前は岩壁っぽいしということで作戦中止。もし、パートナーが居ればこんなバカな思いつきを実行することはなかっただろう。時々スリップしながら左俣へと戻った。ここから二俣まではわずか30分ほどであった。もう16:15。今日は下で幕営しようかとも思ったが、それでは初日に予定していた独標のコルまでの差がありすぎることや、夕立もなさそうだし、どんなにゆっくり登っても明るい内に北鎌のコルまでは登れるだろうということで、ほとんど水のない、今度こそは正しいと思われる右俣を登る。右俣の上部はほとんど水が流れていなかったので、早めに確保しておくのが良いだろう。途中にテープやビニールの切れ端などが落ちており、このルートで間違いないことを確信する。けれど体力の消耗が激しすぎた。足取りが重く、まるで進んでいる気がしない。ここで弱い自分を見た。最後はヘロヘロで、1時間程度の登りを2時間掛かったことになる。二俣を超えてからはルートファインディングに手間取ることはない。支沢が流れ込んでいても、広い方(本流)を選んでいくだけである。

北鎌のコルには既に先客が居た。外国人ガイドの5人パーティだ。ちょっと行ったところに狭いけどスペースあるよ、と教えてもらい、ここを幕営地とする。30分頑張ればもっといいとこあるよ、とも言われたが時間は既に18:28。それに今の自分だと1時間掛かるだろう。さらには単独者が先に行ったことも知った。2-3人用テントがギリギリ、傾斜のあるスペースだったが、疲れた体を横たわらせるには十分だった。4リットル担ぎ上げた水をたっぷり飲んだ。塩分不足からか喉の渇きが異常だ。唇と口の中の粘膜がめくれ上がっている。味噌汁を2杯飲んで補う。もし400ccしか水がなかったら…。

8月26日(日) 晴れ

いつもの通り寝坊した。4:00に起きようと思っていたがもう4:30。うだうだしているとあっという間に時間が過ぎていく。5:00頃、先行パーティが通過していく。これで火が付いた。たっぷりの飲み物に食事を取りつつ、急いで撤収。5:30出発。少し高度を上げて振り返るとp4 – p7のピークが北尾根のようにかっこよく連なっている。今回、これらのピークを省略してしまったことは惜しいが、各ピークの下降なんかに時間を取られてしまっただろう。この先の行程よりも難しそうだ。30分先行しているパーティを意識せざるをえなかったが、あっけなく追いついた(20分ほどで)。早速ロープを出している。ちょっとした乗越に苦労しているようだ。それでも独標までは易しい稜線が続き、360度の視界を堪能する。独標は千丈側の巻き道が明瞭で楽出来る。独標を過ぎれば着いたも同然、みたいな勝手なイメージを持っていたのだが、細かな岩峰が連続し、ついつい巻き道を探す癖がついて時間を食ってしまった。途中で、「迷ったら稜線通しで行け」を原則に進むようにしたらスムーズになった。ガレ場を走る巻き道に見える筋のようなものにろくなものはない。巻き道がある場合はかなり明瞭だし、巻くとしてもピークを小さく巻く感じだ。どうとでもルートを取れる感じもあり、それぞれのセンスの見せ所だろう。所々にテン場があるが、どこも狭い。2-3人用1張分だと思われるが、槍ヶ岳へ近付くにつれ、テン場が広く快適になっていく気がした。

独標を超えたくらいから槍ヶ岳が目の前に迫るが、意外に近付いてくれない。北鎌平付近ではうんざりしてくるが、稜線通しで行けば槍の取り付きへと導かれる。最後の核心部は覚悟していたが、想像していたよりは易しい。むしろ、途中の岩峰の登りの方が怖かったくらいだ(ルートミス?)。10:40頂上。やはり嬉しい。9:00の見積もりからは大きく外れてしまったが…。

この時間だと静かな時間を過ごせるかと思ったが大混雑。若い女の子に写真をお願いして、さっさと下降開始。けれど大渋滞で肩の小屋まで30分も掛かってしまった。温泉+バス時間が気になり始める。無事に北鎌尾根を登れてテンションが上がっていたのか、あんなに嫌いだった、永遠に感じられたこともある槍沢の下りが快適に感じられる。それも横尾を過ぎたくらいから疲労感が増し、ペースを保つのが大変だった。槍沢ロッジからぶっ通しで下るはずだったが、徳沢園で10分ほど休憩。ここから上高地までは周りからも見てもフラフラだっただろう。もう16:00近くであったので、上高地の温泉には入れなかったが、サンダルに履き替えた時の開放感は最高だった。荷物を片付けてバナナソフトクリームにありつく。松本行のバスがすぐに出ると判明。アイスクリーム片手に切符を買い、何とか乗り込んだ。そのまま松本駅18:35発のスーパーあずさに乗ったまでは良かったが、自由席は満席。まだ夏休みなのだ。デッキでビール&コーラを飲み干したがすぐに酔いが回り、心地良いというにはちょっと無理のある疲労感に包まれて帰宅した。

今回のルートを単独で駆け抜けることはトレーニングとして良い選択だったと思う。まだまだ気合も根性も足りないという反省の一方で、5年間の成長を実感出来たことも良かった。それに、晴れた日のクライミングは最高!

直前にも関わらず山行を許可してくれた清水さん、心配してくれた国府谷さん・URANさんに感謝します。

(記: 坂田)

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