赤石沢

日程: 2007年9月15日(土) – 17日(月) 前夜発
山域: 赤石沢(南アルプス)
参加者: 掛川(L)・坂田・土井
行程:
第1日目: 入渓点(9:00) – 取水堰堤(12:30/13:10) – 門ノ滝(14:36) – シシボネ沢出合(17:28)
第2日目: シシボネ沢出合(6:30) – 大ゴルジュ高巻き完了(7:30) – 百軒洞沢出合(10:00/11:15) – 百軒洞山ノ家(13:35)
第3日目: 百軒洞山ノ家(5:00) – 赤石岳(6:55) – 赤石岳避難小屋(7:05/7:30) – 赤石岳小屋(9:09/9:20) – 椹島ロッジ(11:40)

9月14日(金)

夜静岡駅にて、坂田・土井と合流。井川の畑薙ダム手前約1キロのところにできた、駐車場にテントを張る。車がざっとみても50台ぐらいはとまっていた。
7月の台風で道路が崩壊しているため、ここからは歩いてダムのバス乗場まで行かねばならない。
満天の星空だった。久しぶりに天の川を見た。こんなところに住むのもいいなと思う。

9月15日(土) 晴れ

谷間なので雲がかかっていたが、天気はよさそうだった。朝一番のバスは、8時に出る。バスが込みそうだったので早めに出た。
バス停まで約20分ぐらい歩く。途中崩壊しているところを仮設の歩道で渡る。
バス停には、既に10人ぐらい人がいた。その中には赤石沢に行く僕らと同じ3人組のパーティ、
九州から来た聖沢に行く3人組もいた。しばらく待っていると、30人ぐらいの団体も来た。
彼らは、千枚小屋に行くツアーのようだった。臨時のバスが来て、僕らは7時半頃出発。
ここまで付いて来たうらんはここから歩いてしらかば荘まで行ってお風呂に入ってのんびり
してから、昼頃の1日1便のバスに乗り、3時間半かけて静岡市内まで帰っていった。
8時半ごろ牛首峠に着く。すっかり晴れ上がりいい天気になった。一緒に降りた別のパーティはさっさと身支度をして出発していった。年配の男性二人と女性1名。明日は赤石の避難小屋まで行けたら行きたいと言っていた。だいぶ沢慣れているようだった。
ストレッチをして、9時出発。入渓してすぐ、坂田君、土井さんらが「生臭いですね」と言う。以前飯田さんから黒部の読売新道を降りてきて東沢出合に来たらイワナくさかったと言っていたのを思い出した。しばらく歩いていくと下流から釣り人が上がってきた。椹島にいると言っていたので、ロッジの人らしかったので計画書を渡した。井川の交番に出してくればよかったのだが、忘れていた。

Img_0435s_1  イワナ淵を通過する。ここの水量の多寡で遡行できるか判断するとガイドには書いてある。今回は特に難なく通過する。上流の取水堰の影響はもちろんだが、しばらく降っていないのかなと思った。
ニエ淵に入り、5メートルのナメ滝に来た。右岸の5メートルほど上がったバンドに高巻き用のロープが張ってあり、バンド沿いにもトラロープが張ってある。
先行していた人達がちょうど巻いているところだった。堰が出来る前のガイドによると
「最悪」と形容されているところで、今出ているガイドではここは釜を泳いで、ハンマーをナッツ代わりにA0で登るとある。Img_0440s_1  最初ここがその5メートルの滝だとは思っていなかった。巻くかどうか躊躇していると、坂田君が行けそうでんがな、と言う。坂田君は「流されたら、引いてもらえますか」と言って、とりあえずロープを引いて行く。左岸をへつりながら泳いでなんとか這い上がる。土井さんはちょっと不安そうだったので、ライフジャケットを付けて空身で行く。僕はラストだったが、最後這い上がるのがむずかしく、土井さんに引き上げてもらった。確かにこれでもし水流が強ければ、ここを通過するのはさぞ困難だったろうと思う。
次は4メートルのチョックストーン。ここは左岸にボルトが1本打ってあり、そこのシュリImg_0450sンゲにぶら下がり、対岸に渡る。僕らが着いた時、先行パーティの一人がちょうど滝の落ち口で、すべったのか、流れの中でつかまっていた。結局下の滝壺に落ちたのだが、怪我もなく無事でよかった。そこを通過し、ゴーロをしばらく行くと取水堰に着いた。12時40分。
ここからが、本来の赤石沢の姿だ。水量が全然違う。どうどうと流れている。
北沢出合を過ぎたところで、坂田君の沢靴のソールがはがれて片方流されてしまった。坂田君は、なんでも、同様の事故が発生しており、発売元が回収しているのを知ってて今度の山行が終わったら持って行こうと考えていたらしい。泣きっ面にハチで、渡渉して探しているうちに今度はもう片方のソールもなくなってしまった。結局、片方のソールは見つかったが、片方はなく、片方サンダルで行く事になった。
次は門の滝だ。Img_0474s_1 チョックストーンに流れを二分されているが、今回は水量が多いせいか、Xの形にはなっていなかった。ここは赤石沢の中では、確かに迫力のあるところだった。一瞬圧倒される。
ここを通過すると、左岸の岩の洞窟をA0で登るところで、赤石沢の中でもっとも難しいとある。
洞窟の中のシュリンゲを頼りにヘッドランプを着け空身で抜ける。荷揚げをしてから、みんな続く。人工登攀をやったことがない土井さんはむずかしく感じたようだ。確かにシュリンゲに足を入れるところが難しい。
ガイドによるとここの上流右岸に小さいが快適なBPがあるというので、探しながら行くがわからない。結局5時を過ぎ、暗くなってきたので沢が90度に屈曲する大ゴルジュの入口の大岩の上でツェルトを二つ張る。
薪は豊富にあった。焚き火をして体を温めて寝た。鵬翔の人の近況や、東北に行っている清水さん達のことなど話す。沢の音がうるさかった。Img_0490s
 

9月16日(日) 晴れ後雨

翌日、5時過ぎ、坂田君の「おはようございます」で目がさめた。飯を食べ、6時半に出発。今日もいい天気だ。水量も昨日より少ないと坂田君は言う。シシボネ沢を少し登ったところで、急な左岸を高巻く。2箇所ロープを出す。
1時間ぐらいかけて抜ける。ここまでが赤石沢の核心部だそうだ。すこしホッとする。ここからも、淵や滝は続いて飽きない。だが、これまでのような悪場はなかった。ラジオラリアがきれいだったので、出来るだけ色が鮮やかな小石を二つ拾ってポケットに入れた。
10時頃百間洞出合に着いた。この日土井さんは歩き始めてから、腹が痛そうだった。昨日沢で流されそうになった時、たらふく水を飲んだせいかなと言っていた。この沢は百間洞山の家が上部にあるため、本流は汚染されている可能性がある。時間が早ければ、赤石岳避難小屋まで行こうと思っていたが、土井さん曰く食事がよくないという話だった。ごはんとポテトサラダだけの食事に客が怒ったという話を聞き、今日は百間洞山の家に泊まる事にする。
時間があったので、少し釣りをしたが、初めて毛鉤で釣りをしてみたが釣れなかった。魚はたくさんいるので、もし、ここで幕営できたらかなり楽しめるだろう。
雨も降ってきたので、再び遡行開始する。百間洞沢に入ってからも、淵、滝が出てきて気は抜けない。1時間ほど上がるとようやく源流の趣になった。Img_0514s 小屋が見えたところで、みんなと、がっしり握手して遡行の成功を祝う。1時半小屋に着く。赤石沢はどうでしたかと聞かれる。ここんとこ、上はずっと雨が降っていたらしい。一泊2食で8000円。素泊まり5000円、夕食2000円、朝食は1000円だったが、5時からだったので、早立ちしようとお弁当(1000円)に変更する。リムジンバスに乗った時のチケットを提示すると3000円引いてくれる。土井さんのチケットが見つからず、ちょっとあせったが、後でザックの中からびしょ濡れでちいさく固まった状態で発見され、めでたく割り引いてもらえた。領収書とお弁当の引き換え券をもらう。この領収書が帰りのバスに乗る際の乗車券になるのだ。
りっぱな小屋である。24日の小屋閉め前の100円引きでから揚げ、ソーセージ、枝豆など各種つまみもあった。まずはビールで乾杯する。昨夜に続き、つまみが豪華だった。というのは、土井さんが、小屋の食事がまずい場合に備えて、たくさんおかずを持って来ていたからだ。まぐろの角煮、焼き鳥。土井さんごっつあんでした。土井さんは更にカレーも持ってきたらしい。外を見ると、雨脚が強くなってきた。例の3人組はどうしたかなとふと考えた。夕食はトンカツ。土井さんの禁トンカツの誓いは終わった。まったく山にいるとは思えない豪華さで感激した。ごはんと味噌汁はお代わり自由。小屋には他に縦走していた8人がいた。夕方暗くなってから、赤石沢を遡行してきた3人組パーティが到着した。食事には間に合わなかったのか、自炊したらしい。あの食事を食べられなかったのは実にもったいないことだ。

9月17日(月) 曇り後雨(午後には回復)

雨は降っていなかった。4時半に出る予定だったが、寝坊して小屋の電気がついた4時半に目覚める。お弁当を受取り、5時ごろ出る。ここから椹島までコースタイムでは、赤石岳まで4時間、赤石頂上から椹島まで5時間20分,計9時間20分。沢のガイドブックでは8時間になっている。バスは2時が最終だ。
坂田君が快調に飛ばし、後から付いて行く。赤石岳までは天気も良かった。右手には赤石沢が深く切り込んでいる。赤石非難小屋まで特に休まず、7時ごろ着。Img_0516s 百間平までの400メートルほどの登りが朝一番の体にはこたえた。赤石岳に着くと天候は急変し、雨混じりの天気になった。避難小屋の小屋番の人が、ゆっくりしていけと言ってくれたので、中に入り、朝のお弁当を食べる。今年は赤石沢をやった人は少なかったそうだ。小屋は狭く、どうやら食事は出していないようだった。やはり昨日百間洞に泊まってよかった。ここからは、6じかんぐらいですかと聞くと、なに、足の早い人なら4時間だと小屋の人は言う。それを聞いて坂田君がコースタイムどおりにのんびりいくはずはなかろう。下りは急なところもあったがそんなに悪くはなかった。ときおり雨に降られながら、11時半過ぎ椹島に着く。今日は連休の最終日で込むと思ったのか、12時半と1時半に臨時のバスが出ていた。行きに会った九州から来た聖沢の3人組と再会し、お互いの沢の話をした。聖沢も魚が多く、毛鉤に向こうから出てきたそうだ。巻きもしっかりしていたそうでいつか行って見たいと思った。1時半の臨時のバスに乗り、しらかば荘で温泉に入る。ここは無料で、温泉もぬるめでしかもぬるぬるしていてよかった。土井さんが感心することしきりであった。今しらかば荘の建て直しの計画があるそうで、このひなびた風情が無くなるのは通りすがりのわがままと知りつつも残念な気がする。
赤石沢は、静岡に住んでいるから、いつか遡行したいと思っていた。取水堰より上流は今だ太古の雰囲気に満ちていた。今回の成功は3日間天気が安定していたことと、パーティの足並みが揃っていたこの二つにつきると思う。トップを切ってくれた坂田君のおかげでずいぶん楽させてもらった。土井さんは本格的に沢を始めてまだ日が浅いそうだが、忙しいなか小屋や沢の状況など色々調べてくれて助かった。両君に感謝したい。

(記: 掛川)

参考装備:
(共同)ロープ8ミリ×20メートル1本
(個人)カラビナ4-5枚・シュリンゲ3-4本
これといった幕営適地は少ない。百間洞出合は割りと広い場所があったと思う。天候さえ許せば、2日目ここに泊まり釣りをしたり、のんびり過ごすのも楽しいだろう。

ここしばらくは掛川家の山行がかなわず、ずっと行きたいと思っていた赤石沢も上ノ廊下も諦めていたが、急に驚きのOKが出て(やったね!)、一緒に剱へ行くつもりだった土井さんを道連れにして登ってきた。
赤石沢はこれまでの沢の中で最も困難だった。水量の多さ・ほとんど途切れないゴルジュ・巨岩帯。ようやくこのレベルに取り付けたという感じだ。まだまだ上はキリがないが、今シーズンは湯桧曽本谷・双六谷・赤石沢と充実感があった。双六谷よりも魚影が濃く、下流域は緑岩石・中流域はラジオラリアチャートが印象的で水の色もモノトーンで落ち着いた感じで楽しく、雰囲気の良い沢でもあった。ただ、魚影の濃い影響なのか取水堰堤の影響なのか、生臭い。これまで行った中でもトップを争えるくらいだ。10年ほど前にニエ淵上流に取水堰堤が完成し、下流域の水量が半分に減ってしまったが、その分、大きく静かな淵が連続するようになって水線通しに楽しめる。以前に遡行した中村さんによると、イワナ淵がいきなりの核心で、徒渉など出来ずに大変苦労したとのことであった。欲を言えば、もう少し高さのある滝があってマルチピッチで直登できる滝があれば、より記憶に残る沢になったと思う。まあ、利き足の右足をサンダルにせざるを得なくなった者が言うことではないが…。このハプニングでは掛川さん・土井さんが流れにダイブしてくれるなどの大きな助けをもらい、非常に感謝している。先の丸いぶかぶかのサンダルだったのでほとんど二点支持で登ることになったが、ベテランの掛川さんがメンタル面でも支えとなってくれて有り難かった。予備のソールを持ち歩くべきだったと反省している(迷ったが軽量化を優先させてしまった)。門の滝では二ピッチ分ロープを出したが、1ピッチ目のクライミングはともかく2ピッチ目のトラバースが滑りやすくて怖かった。洞窟の滝は、クライミングとしては核心かもしれないが、人工なので支点を確認しさえすれば高さもなく大したことはない。掛川さんのシュリンゲを残置シュリンゲに足して足掛かりとしたが回収出来なかった。最後の核心部、大高巻きは正面のルンゼを登って右側の草付きへ移るのだが、踏み跡が明瞭なので見逃すことはない。また、大部分で踏み跡が明瞭なのは安心だが、10mの泥壁は取り付いてみたところ見た目よりも悪くて切れ落ちているので、ロープを出して掛川さんにリードしてもらった。最後に2m程度のクライムダウンがあるが、一瞬とはいえ怖かった。土井さんにはお助け紐を付けて降りてもらった。大高巻きが終われば大きな核心部は終了で、赤石沢を登り終えたような安堵感を覚えた。
掛川さんも書いているが、ビバーク適地はほとんどない。今回ビバークしたシシボネ沢出合は、これまでにビバークされた痕跡もなく、安全とは言えなかった(ある程度までは耐えられそうだったが)。余裕があれば、北沢出合付近で1泊・百間洞出合で1泊とする行程ならば赤石沢を満喫するに理想かもしれない。
初めての小屋泊まりは良い体験だった。やはり楽だし、食事が素晴らしい!寝具も備わっていて寝心地最高!後で掛川さんから聞いたのだが、小屋の主人は奈良出身らしく、気持ちの良い対応をしてくれた。百軒洞山ノ家はお勧め。小屋で「岩と雪」を読んだが、今出版されているどの山岳雑誌よりも読み応えがあり、自分で揃えたくなった。
こんなに楽しい3日間となったのは掛川さん・土井さんのお陰、ありがとうございました。

(記: 坂田)

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