EL CHORRO(Spain)での日々

日程: 2007年10月4日(木) – 2007年10月15日(月)
山域: EL CHORRO(エルチョロ・スペイン)
参加者: Aさん(L)・坂田
行程:
第1日目: 移動
(Aさん)
KL862便成田第1ターミナル(11:30) – アムステルダム(16:20/17:50) – マドリード(20:20)
(坂田)
SU584便成田第2ターミナル(12:00) – モスクワ(17:25/19:20) – マドリード(22:25)

マドリード(バラハス国際空港第4ターミナル到着ロビー)にて合流後、空港にて仮眠。

第2日目: 移動
バラハス国際空港(5:00) – (タクシー) – アトーチャ駅(5:30/9:30) – (特急Talgo200) – マラガ駅(13:30/19:15) – (普通列車) – エルチョロ駅(20:03) – (徒歩) – キャンプ場(20:20)

第3日目: クライミング
Frontales Bajas / Amptrax エリア
・Amptrax(5+) 6p: Aさん全ピッチOS
1p) 5 2p) 5+ 3p) 5 4p) 5 5p) 4+ 6p) 4+ 7p) 4+
・Sperpotencia(6a): AさんOS
・Mespotencia(6a+): AさんOS / 坂田RP
・Frente Judea de Popular(7b): Aさん途中まで

第4日目: クライミング / Gorgeエリア偵察
Frontales Bajas / Amptrax エリア
・Prepotencia(6a+): AさんOS / 坂田途中まで
・Frente Judea de Popular(7b): AさんRP
Caliza エリア
・Diurna(6a): AさんOS
Frontales Medias / Poema de Roca エリア
・Morritos Jeagger(7b): Aさんテンション
・Garcia Aguas(6b): 坂田テンション

第5日目: クライミング / Frontales Atlas エリア偵察
Frontales Medias / Poema de Roca エリア
・Garcia Aguas(6b): Aさんフラッシュ / 坂田テンション

第6日目: クライミング
Frontales Atlas / El Pilar エリア
・El Navigator(7a+) 6p: Aさん全ピッチOS
1p) 6b+ 2p) 6a 3p) 6c 4p) 4 5p) 6b+ 7p) 7a+
Frontales Atlas / Escalera Arabe – Right エリア
・Dos Tetas Tiran(6b): 坂田OS
Frontales Atlas / Escalera Arabe – Left エリア
・Rock the Kasbah(7b): AさんOS
Frontales Area / Las Encantadas エリア
・La Lay del Cateto(7a): AさんRP

第7日目: クライミング
Frontales Medias / Poema de Roca エリア
・Mikita Power(6c) + Cafe Burbuscon(7a) 4p
1p) 6c 2p) 6c 3p) 7a 4p) 6c+: Aさん1pOS/他テンション

第8日目: クライミング
Frontales Medias / Poema de Roca エリア
・Garcia Aguas(6b): 坂田RP
・Morritos Jeagger(7b): Aさんテンション(2度トライ)
Frontales Bajas / Los alberconesエリア
・Er Vuelo de Los Polues(6a+): AさんOS

第9日目: 移動
キャンプ場(9:00) – (タクシー) – アロラ駅(9:30/11:15) – (普通列車) – マラガ駅(11:51/15:00) – (Talgo200) – アトーチャ駅(19:00)

第10日目: 移動
アトーチャ駅 – (地下鉄) – バラハス国際空港
(Aさん)
KL1700便マドリード(10:40)-アムステルダム(13:15/15:20)
(坂田)
SU300便マドリード(23:55)

第11日目: 移動
(Aさん)
成田(9:40)
(坂田)
モスクワ(6:55/19:20)

第12日目: 移動
(坂田)
成田(10:00)

今回、元々Aさんと一緒に行くはずだった相方がキャンセルとなってしまったため、急遽同行を申し込んだ次第である。海外はもちろんのこと、国内でもビッグウォールの経験がほとんどない上に、クライミング能力もAさんに遠く及ばないことからユマール覚悟、Aさんと初めて会ったその場で1週間後の海外遠征を決めたという訳で、出発前から不安要素だらけだった。

それでもいざ現地に到着して見たこともない石灰岩の大岩壁を目の前にすると、これから始まる未知の世界への期待感で満たされた。実際に取り付いてみると全てが期待以上!Aさんとは気楽に接することが出来たし、クライミングに関してたくさんのことを学ぶことが出来たことも大きい。もちろん、足を引っ張ったのは言うまでもないのだが…。取り付いたこともないようなハードルートばかりで、指の痛みと腕のパンプは常態化し、日中の暑さと相まって身体的にはかなり応えたが、素晴らしい環境の中でこれほどクライミングに集中出来たのは幸せだった。

今後もさらに自分の世界を広げていくためには、クライミング能力の飛躍的な向上を果たし、経験を積んでいかなければならないことを痛感した。フォロー技術も体力も気合も根性も何もかもが足りないのだが、ますます湧き上がってくるモチベーションを武器に、これまで以上に張り切って駆け上がっていきたい。

エルチョロは、スペイン南部アンダルシア地方のリゾート都市、マラガの近郊に位置している。スペインはヨーロッパで最も岩の量が多く、エルチョロはその三大岩場の1つである。今回は2001年発行のトポを利用したが、既に800本以上のルートがあり、8a以上の高難度ルートも特にGorgeエリアに多い(10%も?)。メジャーなエリアは、Frontales(写真上:右側にまだまだ続く!)とGorge(写真下: V字谷の奥へと何kmも広がる)であるが、後者はアクセスに難があったため、今回は前者のみに取り付いた。

Img_0625 Img_0609s_2

ここは標高1200メートル弱の山の前衛壁のような感じで、高さ400m程度の壁が数キロに渡って広がっている。広大なので空いている印象を受けた。エルチョロの駅前からも眺められ、キャンプ場から60min以内にほとんどのルートにアクセス可能。15minもあれば数多くの有名ルートに取り付ける。近くのキャンプ場は標高200m、取り付きの標高は250mから580m程度。このキャンプ場はシャワー設備もあり、今回は2名1点とで93ユーロだった(カード決済可能)。気温は朝方は17度前後、日中は27度前後だと思われるが、日中の暑さは強烈で体感的には30度を超える。ただ非常に乾燥しているため、汗をかきにくく日陰は過ごしやすい。多くのクライマーが日中はレストしており、ベストシーズンはもう少し遅いのかもしれない。駅の近くにはスーパーとクライミングショップがあるが、品揃えは期待できない。ただトポはこのクライミングショップで購入可能(寄付金込みで22ユーロ)。唯一の難点は電車でのアクセスが不便なことだろう。マラガ駅からの電車は1日1本のみ、運休することもあるので要注意だ。レンタカーがあれば各クライミングエリアへのアクセスも格段に楽になる。石灰岩でフリクションはバッチリ、傾斜大。終了点を含めてボルトの状態は良い。日本よりもボルトの間隔が広くて驚いたが、ガイドによると適正らしい…。グレードは甘め。エリアによってバラツキがあるようだ。長いルートが多く、70mロープを使用しているパーティもちらほら。60m&バックロープは必須。ヌンチャクを1ピッチで16本必要だったルート(50m以上)もあり、ギア類も多めに必要。日本では情報を得にくかった(スペイン語のサイトは数多く見付かるのだが…)。

10月4日(木)

モスクワでの出発が1時間近く遅れた以外は順調だった。荷物は24kg余り。過剰分は見逃してくれた。手荷物を入れると30kgありそう。アエロフロートロシア航空は初めての利用だったが、荷物の過剰をおまけしてくれる以外は何も期待してはいけない。

Aさんと無事合流後、到着フロアーのベンチで仮眠。肘掛けが嫌がらせして体勢苦しく、何度も目が覚めた。

10月5日(金)

予定よりも1時間早くマドリード中心部のアトーチャ駅へ向けてタクシーで出発。ぼったくりの噂もあったので、メーターの予想より早いカウントスピードに落ち着かなかったが、適正料金(23ユーロ)でホッとした。タクシーは日本よりも安い。このところのユーロ高は辛いところだが…。

アトーチャ駅を7時に出る特急に乗りたかったのだが、突然の運休。驚いた。2時間、ヒマなので交代でその辺をうろついた。朝食はカフェテリアでパン+オレンジジュース+コーヒーと地元ではお決まりらしいセット。

9時発のTalgo200は無事出発。本当は新幹線のAVEに乗りたかったのだが、マラガ駅まで延長されるのはまだ先のようだ(工事は進んでいる)。でっかい機関車に牽引される上、車輪が連結部にあることやAVEの路線をそのまま走るので客車は静かなのだが古い。リクライニングもわずか。映画を上映していて、スペイン語がさっぱり分からないのについつい見入ってしまった。外を流れる景色は単調で、乾いた大地かオリーブ畑が広がる。途中、AVEから在来線へ入る時に軌道幅が変わるのだが、これがなかなか面白かった。

途中、エルチョロを通過するのだが、車窓からの馬鹿でかい岩壁に、慌ててAさんを起こして一緒に大興奮!

マラガ駅は賑わっていた。AVE開通を見越してか駅ビルも新しく、飲食店を含めて多くのショップが入っている。ただコインロッカーが満杯で使えなかったのが残念。日本と違い、Tokenと呼ばれるコインみたいなものを購入して使うようだ。取りあえず駅前のスーパー(あって助かった)で買い出し。品揃えも値段も文句なし。個人的には5時間くらいは楽しめそうだった。取りあえずレスト予定日までの2日半分くらいを購入。食事をしたのだが、Aさんの頼んだ魚がでかくてビックリ。会い分はポテト+焼き肉でちょっと物足りず。

燃料を買っていなかったことを思い出す。今回はMSRなのでガソリンを手に入れなければならない。スーパーには何も置いてないし、街中にスタンドはないという。それでも、Aさんがスタンドを探し当てゲット、感謝!

エルチョロへの電車は1日1本のみなのが不便。超ローカル雰囲気の列車にクライマーを2パーティほど見付けた。駅からキャンプ場までは15分程度と至近。ザックが買い出しでかなり重たかったのでこれは助かった。受付嬢は英語も堪能でスムーズ。シャワー設備を無料で使えるとのことで、独りはしゃいだ(Aさんは風呂嫌い)。

テントには「鵬翔」の文字。ちょっと不思議な感じだ。Img_0586s_2

明日は早速マルチ。5+と手頃なこと、頂上へ抜けられるので全容を把握可能なこと、アプローチが楽なこと、条件バッチリのルートだけに競争だろうと早起きを決め込む。装備の確認だけしてさっさと寝た。フラットな地面が快適。星は思ったほどは見えない。キャンプ場がかなり明るいせいだろうか。明るい星はかなりくっきりと光っているし、空は十分に暗いのだが…。

10月6日(土)

5:30に起きたが、真っ暗。どのテントも静まりかえったままだ。朝食を済ませて7:00出発。ヘッデン頼りに30分程ほどウロウロしたが、明るくなり始めた8:00には目的の岩場へ到着。誰も居ない。大人気には違いないとは思うのだが、登っている間も周辺に人気はなかった。日本だと週末の人気ルートの混み具合とは違うようだ。

Img_0555s_2  Amptrax(5+)、5.7くらいかと甘く見ていたが5.10aくらいあって冷や冷やしながらフォローした。Aさんは余裕。最後のピッチ、トポにはeasyと書かれていたが、4級くらいはありそうなのにボルトが1つもなかったのが印象的。他のピッチもかなりランナウトしていて、簡単なグレードも簡単ではないなぁと思った。バックロープで荷揚げをしながら登ったのだが、片足500gくらいの靴を持ってきてしまったのは反省。12:45に終了点。充実感たっぷり。裏側を歩いて下降する予定だったが、途中2ピッチほど懸垂。歩きによってエリアの全体像を見渡せたのは有意義だったが、うだるような暑さに参ってしまい、テントに戻って16時までレストすることにした。
自販機でコーラを購入。この1ユーロ自販機、滞在中大活躍だった。帰り道は毎日、頭の中がこの自販機で埋め尽くされるほど。

さすがは初日。16時には復活。それにしても今から遊べるとは!日本ならもう帰ろうか、という時間なのにまだたっぷり4時間もある。

Img_0589s_3 (一般的には)手頃なショートルートが午前中のAmptraxの近くにあったのでここを登ることにする。一般的には、と書いたのは自分に取ってはギリギリというか限界グレードだから。オンサイトは無理なので、AさんがSperpotencia(6a)を登ってムーブを見せてくれることとなった。ところが、左上してから終了点までとてつもなくランナウトしているということで怖じ気づき、グレードアップしてしまうけれど面白そうな右隣のMespotencia(6a+)を登ることにした。やはり難しい。もう各駅停車である。腕がパンプしてしまってRPは絶望かと思われたが、Aさんにハッパを掛けられトライ。各駅停車しただけあって勝手に体がムーブしていくような感覚になれたのは良かったが、やっぱり腕が辛い。終了点間際でもうダメかと思った時、Aさんからまたもやハッパを掛けられ無事クリップ。やったね!!

「二撃出来るくらいならまだまだ(グレードに)余裕あるよ。」と言われ、初日からの成果と合わせてすっかり気を良くしてしまった。それにしてもパートナーのハッパは効果絶大だ。良いビレーヤーの条件かもしれない。帰国したら土井さんに試してみよう(他意無し)。

Img_0600s_2 ここから更に右の大凹角へ向かって進むとFrente Judea de Popular(7b)がある。これが超々かっこいいのだ!これまで見てきたショートルートの中でNo.1を争うくらいである。これをクラック好きのAさんが見逃すはずはなく、早速取り付く。核心部に入ってからの気合いの声出しが強烈だ。クライマーの緊張感に引き込まれ、核心部ですらランナウトしていることも相まってビレーも真剣になる。残念ながら1テン。ムーブを見出したAさんは「なんだよ~。」と悔しがる。一手の我慢だったようだ。けれど結局はヌンチャクが足りずに途中で降りる羽目になったのである。何と16本ものヌンチャクが必要だったのだ。ロープも懸垂のために60mx2本。スケールが違うと思った。ちなみにこのルートは開拓当時、世界最難と言われていたらしく、当時は7b+が付けられていた。その後、7a+->7bと修正が入ったようだ。

初日から疲れ果てたが、想像以上の充実した一日に大満足である。これが後何日も続のだ。

10月7日(日)

朝はのんびりしても良いことが分かったので起床時間を7時に遅らせる。
0600
早速、昨日のリベンジFrente Judea de Popular(7b)をすべく、向かう。まずは、Aさんのウォーミングアップ。昨日RPした6a+の右隣にもう1本6a+(Prepotencia)があるのだが、これをOS。今回、Aさんのウォーミングアップのルートがちょうど自分の目標ルートとなることが多かった気がする。EL CHORROは全体的に(自分にとって)高グレードなので、ウォーミングアップとなるルートのないのが辛いところ。毎日、いきなり本番を迎えるこになる。同じルートをトライしたが、核心部をどうしても抜けられない。朝っぱらから腕をやってしまって、また午後からトライさせてもらうことにする。もちろん次はAさんのFrente Judea de Popular(7b)。これを一撃でRP。このツアーの大きな成果である。

日中は暑すぎてクライミングに向かないので(岩場のほとんどが日当たり良好)、トポを見るとほとんど7a以上だと思われるGorgeエリアを偵察することにする。このツアーのハイライトは、Gorgeエリアで迎える予定だったのだが、アプローチが鉄道の長いトンネルを抜けるか、危険性の高そうな岩壁トラバースしかないことが判明して断念。トンネルには警備員がおり、少なくとも日中はアクセス不可と思われる。以前は岩壁に桟道が張り付いていて誰でも歩けたとのことなのだが…。
Img_0613s Img_0619s

キャンプサイトがダムに面しているのだが、この対岸に日陰となっているコンパクトなエリア(Caliza)があるので行ってみた。ここではAさんだけが登り、Diurna(6a)をOS。良さそうなルートはどれもグレードが高いので、夕方からのリベンジに備えて腕を温存することにした。

キャンプサイトに戻ってランチ&昼寝。

午前中のPrepotencia(6a+)をリベンジしに行ったが、何と残置しておいたヌンチャクがなくなっていた(ほとんどAさんのもの)。海外のエリアでは残置が嫌われるとのことだったが、この短時間で持って行かれるとはビックリである。マルチを含めて長いルートが多いので、貴重なヌンチャクを盗られたことはかなり痛手であった。反省。

気を取り直して、Frontalesエリアの中でカッコ良さNo.1のPoema de Rocaへ向かった。
Img_0639s_2 石灰岩ならではの洞穴のハングに圧倒される。数多いルートの中から、まずはMorritos Jeagger(7b)にAさんがトライ。強い傾斜が長く続くため、腕がもたないのか上部では各駅停車となる。けれどムーブ自体は一発で決めてくるところはさすがだ。後はつなげるだけ。本人はそれが大変だと言っているが…。6a+の挫折に気後れが先行していたが、促されるままにGarcia Aguas(6b)へ取り付く。下部はチョコレートコーティング状態で、フットホールドを慎重に選ぶ。核心部を抜けるのにかなり粘って無事終了点へ。もう20時近く。暗くなる前で良かった。

日曜日なのでテントがグッと減る。

10月8日(月)

出発前の予定では完全レスト。「登りたくなるだろうけど、絶対レストしような!」と誓い合うように決めたのに、昨日の課題が気になって岩場へと出掛けてしまった。朝はのんびりと起きたが…。

まずはAさんがウォーミングアップにGarcia Aguas(6b)を登ってフラッシュ。ムーブを目に焼き付ける。「ランナウトしてて限界グレードだと怖いね~」に深く頷く。ほんとに怖い。けど5.11aにしては甘いとのこと。これにも同意。続いてRPを目指して登ったが、2本目のヌンチャクを掛ける頃には腕が震え、呼吸が乱れる。脇も広がってしまい、必死の状況だ。けれど寝付けなくなるくらいに散々シミュレーションしてRPやる気満々だったのでかなり頑張った。なのに核心部でテンション。悔しいが、やっぱり身体が疲れているのだ。パンプも指の痛みも身体のだるさも全然取れていない。Aさんもかなり疲れを感じているらしく、Morritos Jeagger(7b)にもトライせず、やっぱりレストしなきゃダメだということになった。

そこで、今回のハイライトとなるであろう、明日のルートの下見に行くことになった。これが遠い(1時間くらいだが)上に、なかなか見付けられない。最初は、15分くらい歩いたところの をこれだと思い込み、どう見てもグレードが割に合わないと言い合いながらこぎつけようとしたがやっぱり×。林道をひたすら歩いて最終的にはこの辺りであることは間違いない、というところでこの日は終わった。

もう食料がないのでスーパーへ買い物しなきゃ、と向かったが定休日。

10月9日(火)

いよいよ今回のハイライト、El Navigator(7a+) 6p: 1p) 6b+ 2p) 6a 3p) 6c 4p) 4 5p) 6b+ 6p) 7a+である。取り付いたこともないようなグレード群に不安たっぷり。Aさんは要らないよというが、ユマールセットを持って行く。今回はユマール支点回収も大きな課題なのだ。けれどAさん曰く、傾斜の強いところでのユマール回収はかなり技術が必要だとのこと。Aさんですらジムでトレーニングしたという。けれど技術書で予習もしてきたし、気合と根性で何とかなるはずだと思うことにする。

1p) 出だしはガバが多くて調子良かったが、核心部のフェースで早速1テンしてしまう。
Img_0687s
2p) 記憶なし
3p) 今回、一番難しく感じたピッチ。垂直くらいのすっきりしたフェース。2テンはしたと思う。
Img_0691s
4p) 短いトラバース。易しいが怖い。
5p) のっぺりした壁にフィンガークラックが走っており、印象深いピッチ。フィンガーは大の苦手だが、クラックが所々横にも走っていて、かなり助けられた。墜ちなかったが嬉しい。
6p) 7a+にびびったが、ボルトのライン取りが最悪。誰も登らないようなところに無理矢理作った感じ。結局新たに打ち直されているラインを取る(グレードダウン)。5p目まではルートもロケーションも最高なだけに惜しい!けれど最後は難しいところがあってテンション。何とか、という感じで這い上がった。
Aさんも最後のピッチに納得いかないようで、明日もう1本マルチを登ろうということにした。

帰りに、Frontalesエリアで、まだ足を運んだことのないLas Encantadas エリアへ足を運んだ。ここのルートはすっきりとした見栄えの良いものが多く、グレードも高い。自分は取り付くのを諦めたが、AさんがLa Lay del Cateto(7a)を二撃した。

今日はスーパーが無事開いていて食料ゲット。今回の食事はキャンプ期間中を通して、オリーブ油・塩・ミントティー・コーヒー・砂糖・パン・サラミ・ハム・チーズ・ライス・パスタ・カレー・ポテトフレーク・ツナ缶・魚ダンゴと豆の缶詰・コンソメスープ・野菜類、といったもので、二人分で70ユーロ程度のこれらの食材を駆使して、ほとんど全てをAさんに作ってもらった。クライミングもテント生活もおんぶにだっこ、である。

10月10日(水)

Img_0730s 疲れているので午前中はたっぷり寝た。今朝はとても涼しく、珍しく空は雲に覆われているので、日が昇ってもテントの中は快適だ。なんだかとても贅沢な生活に思えてくる。けれどCafe Burbuscon(7a) 4pのあるPoema de Rocaエリアは午後から日陰になるはずなので、このパターンは理にかなっている、はずだ。実際に日陰となるは16時頃からで、この目論見は外れてしまったのだが…。下り坂かも、思わせた雲は昼頃にすっかり吹き払われ、いつもどおりの快晴となった。

1p目は5+ということでリードするぞと気合いを入れていたが、ルートがどれなのか分かりにくい。Aさんがこれだろうと指したルートはどうも5+ではなさそうだったが、それは見た目だけだろうと思い直して登ってみた。やっぱりというか核心のハング乗っ越しがどうしても出来ない。これか~というホールドを見付けた時には腕がパンプしてあえなく敗退。このパンプが後々致命傷となるのであった。交代したAさん、登りながらこれは6cあるよ~と華麗に登っていく。取り付いたルートが違っていたのである。終了点に着いたAさんが隣にトラバース出来ることを確認してこれを登る。後々調べてみると、Mikita Power(6c)であった。Cafe Burbusconは2p) 6c 3p) 7a 4p) 6c+と続く。

この登攀は辛かった。何せAさんがテンションを掛けながら登っていくのである。傾斜があって既にパンプした腕に応えるし、ムーブも難しい。出来ることは限られており、声を出せばより気合いが入ることを学んだので、とにかく声を出した(もう滅茶苦茶)。核心の3p目は出だしが石灰岩らしい大きい柱状を登っていく。
Img_0735s

ちょうど抱きつけるくらいの太さなのだが、これが意外に曲者。外へ張り出しているので高度感もたっぷり。これを抜けるとすっきりしたフェース。細かい手掛かりを頼りにAさんに引っ張り上げてもらいながら数え切れないくらいテンションを掛けて何とか登り切れた。腕に加えて指までもがもう限界だ。最終ピッチは”wild”とトポにコメントされている通り、ハングにガバホールド。出だしの易しい緩傾斜を登ってから大きく左に回り込むようにしてハングに取り付く。ガバは嬉しく、初めの方はルートを外さないようにテンションしながら頑張れたが、核心部手前でのテンションが致命的となり、ルートに戻れなくなった。目の前の細かいホールドを頼れるほどの力はもう残っておらず、最後の手段、バックロープに1つのユマールとそれにアブミを掛けた。正式なユマールスタイルではないだけあって、これにも苦労するが、2m程を何とか持ち上げ、ルートに戻れた。終了点にたどり着けた時はホッとした。Aさんもホーリングを覚悟したという。トップに腕力を使わせてしまって申し訳ない限り。

Aさんもしきりに洗礼を受けたと言っている。このルートもことごとくランナウトしており、思い切ったムーブが出来ず、テンションを重ねてしまったとのこと。最後のピッチは腕がパンプしてしまったことも大きいようだ。それでもムーブは全てマスター出来たから次は登れると言う。さすがだ。

10月11日(木)

今日も寝まくった。倦怠感と腕のパンプと指の痛みが慢性化した身体を存分に休めた。今朝も涼しい。ここも秋が深まりつつあるのだろうか。今日はクライミング最後の日。思い残しのないよう課題を片付けなければならない。その前に明日のタクシーの予約をレセプションの人にお願いしに行った。エロチョロからの電車が、明日・明後日と運休してしまうのだ。

もうすっかりお馴染みとなったPoema de Rocaへと向かった。最後まで残ったGarcia Aguas(6b)とMorritos Jeagger(7b)を登るために。

案の定、腕はほとんど使えなかったが、三撃目とあって落ち着いて登れた。レストポイントで10分くらいは休んだと思う。核心部、マントリングする感じで乗っ越すところでは力尽きて墜ちる恐怖に襲われたが、それ以上に悔いを残すことの怖さが頭をよぎり、持ちこたえた。ようやくのRP、やったね!う~ん、日本ならまた次があると思って墜ちてたかもしれない。Img_0748s_3

続いてAさんのMorritos Jeagger(7b)。正確なムーブで何事もないかのように順調に登っていくが、被った長いルートはこれまでに蓄積されてきたパンプの取れない腕には酷としか言いようがない。大休止して再トライだ。

近くを登っていたカナダ人のパーティに写真を頼まれ、Aさんが引き受ける。筋肉隆々で真面目そうな男性と天然ボケが持ち味っぽい女性がちょうど釣り合ってそうな仲の良いカップルだ。何と休暇が20日間もあるという。日本の企業も見習って欲しい。エルチョロに来てからカップルのパーティしがほとんどの気がするが、海外では普通らしい。カップルでなければムキムキ男二人だ。日本の小川山のように大勢のパーティを見掛けることはなかった。隣の7aを登るこのカナダ人男性、パワフルなムーブをしそうな体つきなのに、とてもしなやかで落ち着いた動きだ。うまい。惜しくも最後の方でテンション。二撃目でRP。6bの良いルートがそこにあるよと勧められ、Aさんにも登れば、と言われたが意欲が出なかった。もう満足してしまって今日はもういいや、という気持ちに墜ちてしまっていたのである(ここがダメなのだが…)。

今度はAさんを撮ってくれるようお願いする。さっきよりも粘りのある動きで気迫を感じさせるが、やはり腕が負けてしまうようで墜ちてしまった。残念!連日、高難度のマルチピッチでトップを登っているのだから無理もない。
Img_0759s

次へ移動することにする。キャンプ場の至近距離にあり、毎日誰かが取り付いている人気エリア、Los alberconesを残していたからだ。6台の手頃なルートが集まっている。まだ登ろうというのだからすごい。Er Vuelo de Los Polues(6a+)をOSで今回のツアーを締めくくることとなった。

エルチョロ最後の夜を迎えた。シャワーを浴び、テントへ向かいながら充実感に浸った。

10月12日(金)

タクシーが予定通り9時にやって来たことが驚きだ。アロラ駅へ30分程で着き、20ユーロを支払った。メーターはなく、定額制のようだ。電車の時刻表を見ると11時15分までない。マラガ駅から13時の特急に乗るつもりだったが既に満席。次は15時だという。移動にやたらと時間が掛かる。15時の特急も混雑しており、往路とは大違いだ。金曜日から週末なのだろうか。マラガ駅に着いたのは19時だが、まだ明るいのがありがたい。ホステルを探さなければならないからだ。ここでもAさんのスペイン語が大活躍で、看板のある雑居ビルのインターフォンを片っ端から押し、アトーチャ駅間近の宿に二人で35ユーロで泊まることが出来た。

ホッとしたところで久しぶりの都会をうろつき、最後の日くらいはレストランで食事をしようと入った。まだ食べていないパエリアがいいかな、と話していたのだが、入ったところは南米系。「こんにちは。」と話すウエイターに驚いたが、「上海から来たのか?」と尋ねられたのには笑った。「こんにちは」を中国語と思っていたのだろうか。そう言えば今回は中国人に三度も間違われた。中国人に「ニイハオ」と声を掛けられ、そんなに中国系の顔をしているのかなー?取りあえずビールで乾杯。実は日本を旅立って初のアルコール(!)。クライミング中はコーラがアルコールの代わりだったのだ。食事はボリュームタップリ!大好きな目玉焼きが二個も添えられていてすっかり上機嫌。スペイン語が読めずに適当に頼んだ料理が大当たりで、とにかくガッツリ食べたがっていた身体は大喜びだ。Aさんのペルー遠征の話しを聞き、ますます行きたくなった。5年くらい有給取って世界中をフラフラ出来たら良いのに。このレストランでのちょっとした出費を覚悟したのだが、1人当たり10ユーロで済んだ。やはり地元の人しか居ないようなレストランは安い(日本円に換算すると高いが)。

10月13日(土)

早朝7時、まだ誰も起きていない中を出て行き、RENFEの近郊線に乗り、空港へと向かった。KLMとアエロフロートはターミナルが違うので降りる駅も違う。Aさんとはここでお別れだ。

日本へ着いたのは15日(月)10時。特にモスクワ空港での半日は退屈過ぎた。店は少ない、ユーロが使える店は驚くほど高い、寒い(甘く見ていた)、大雪で遅れるといった感じだ。

今回の遠征は楽しく、とても充実していた。そしてAさんのお陰でとても勉強になったし、自分に足りない物を自覚することが出来た。それにクライミングへのモチベーションがますます上がった。日本にも手をつけていない大岩壁がたくさんあるので登り倒したい。ハードルートには打ちのめされたが、得られた物は無限にある。これらを鵬翔にも還元しつつ、自分のクライミング能力を高めたい。そして、このアルパインクライミングの素晴らしさをみんなに味わってもらいたい。

(記: 坂田)

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