水根沢谷遡行

06_1 日時 2006年7月30日(日)
山域 奥多摩 水根沢谷
行程
東京駅 6:07発、奥多摩駅 08:23着、奥多摩駅~水根(バス15分)、水根~入渓点(徒歩
15分)、9:30入渓点出発、水根沢遡行(3時間)、12:30終了点、終了点~水根(徒歩45分)
~奥多摩駅(バス15分)
参加者 (L)清水清二、志村由美子、坂本憲昭、清水幸代(記)

先日の「新人歓迎山行」に次ぐ、二度目の沢体験は奥多摩の水根沢。ガイドブックには「天然クーラーで納涼沢登りの入門、レベルは初級」とありましたが、私の中では「梅雨明けの洗礼、レベルは極めて上級!」でした。
前日までの不安定な天気もなんのその、当日は朝の電車の中では雲行きが怪し気でしたが、奥多摩駅に到着した途端、清水さんの天気予報がバッチリ当たり、温かな太陽が私達を迎えてくれました。「ようこそ奥多摩へ!」
入渓が近づくにつれ緊張感もぐんぐん高まり、準備をしながら大粒の汗・汗・汗。容赦なく降り注ぐ太陽の陽射しに「早く泳ぎたぁーい!!」と胸が躍る。9:30入渓点を出発。昨日の午後、奥多摩地域にもたらされた夕立の降水による増水で水は茶色く濁り気味。足場がよく見えず踏み出した足の感覚だけが頼りに。最初の難関は、どうしても自力では上がりきれず坂本さんにグンっと引っ張り上げてもらった。悔しい!後ろに続く別パーティの何名かも仲間にヨイショと引っ張り上げられているのを見て、何となく納得し先へ進む。途中2パーティくらいの方々が各々に水との戯れを楽しんでいた。例年より水量が多いらしく昨年同じルートを遡行した志村さんに沢の様子を訪ねてみたが「全然違うぅ!」とのこと。やはり自然が舞台となると天候、水量、選ぶルートにより全く違った表情になるのだなあと想像しました。清水さんも、何度も水根沢に来てはいるが毎回違う楽しさを味わってきたという。いつも新鮮な喜びを与えてくれるなんて、まるで「恋」のようだ!私が次にここへ来た時にはどんな顔で迎えてくれるのだろう。いつでもニコニコ微笑んでいて欲しいものだけれど…。
…と、大体この辺から先の記憶が曖昧に。というより消去されているのです!本当に!フィナーレに近い半円ノ滝を全身全霊で登っている間「スリル満点」のあまり、それまでの記憶が消えてしまったのです!本当に!まるで二日酔いの朝、夕べのどんちゃん騒ぎを全く覚えていないように!…と言えばお分かりでしょうか?(笑)まさに酒ならぬ滝に呑まれてしまったのです。「冷たっ!」「へつった!」「泳いだ。」「ヨイショっ」「あ、痛っ!」などなど断片的な記憶しか残ってないのです。約二時間の記憶を喪失してしまうくらい脳みその中のあらゆる機能を使い果たしてしまいました。半円ノ滝。ガイドブックには「トイ状のナメに、優雅に水流を滑らせている。」とありますが…その優雅?な水流が、もの凄いエネルギーを発散させていて、登る前からギブアップ気味。上からウォータースライダーのようにシャーっと滑り落ちてくるのは楽しい?かもしれないが、大股開きで両手両足を突っ張らせ登ってゆく坂本さんを見ながら、内心「私、左に巻きます!」だった。それまで水にジャブジャブ浸かっては黄色い悲鳴を漏らしつつ、水遊び気分を満腹になるまで楽しんだせいもあってか、日なたにいなければ寒さで体がブルブル震えてくる。寒さのせいなのか緊張のせいなのか…恐らくその両方で体が小刻みに震える。そして遂に「行くしか無い!」と、軟弱な心を頼りない肉体で引っ張り上げる。取り付く。両手両足を突っ張ってみたはよいものの、そこからどう登って良いのかわからなくなって佇む。全身突っ張り棒のまま。上からは坂本さんが何か言ってくれているけど水の音で何も聞こえない。飛沫を上げる水と、その轟音の迫力に「参りました」と泣きそうになる。このまま突っ張ったままでは力つき落ちてしまう!と、その時、下から志村さんが足の置き場を教えてくれる。水に触れるか触れないかのギリギリのところ。もし流れに巻き込まれたら一瞬にしてバランスを崩してしまう。慎重に一足、一手ずつ進んでゆく。両手両足で突っ張るには手の長さが足りなくなり、何とも奇妙で危うい格好で進む。登る。一瞬左足が流れに巻き込まれそうになる。ここで巻き込まれてしまったら滑り落ちてしまう!と、思いっきり突っ張って、全神経を登りきることに集中する。…この間、私の記憶は消去されたと思われます(笑)そうして、ようやく頭を上げてニコやかに微笑む坂本さんや他のパーティの方の顔を見ることができました。けれど最後の最後で油断してはいけない!と慎重に登りきる。
「ヤッタぁ!!頑張れた!」脱力!
必死になっている時には感じなかった寒さが、カラビナからザイルを外した瞬間に体を襲い、すぐに日なたに身を置く。木漏れ日が暖かい。一筋の太陽の光線が緊張と寒さから私を解放してくれる。こんな時、本当に感謝で胸が一杯になる。ありがとう神様。
その後は、難なく終了点へ向けて歩を進める。水は、いつの間にか透明になっていた。私の中の悪しきものが浄化されたのか?(笑)そして、そろそろ今回の遡行が終わりに近づきつつあるのか。
と、安心しきっていた時に本当のハイライトが登場!今回の核心(私にとっては!)が登場!最後の最後で、こんなに、もがき苦しむのかぁ!!!何故だぁ!!!高さはそれほど無いが、どうにもこうにもホールドが見つからない。無理!!もの凄い水圧で拒否される。一度目のトライで落ちる。二度目は持参した水中眼鏡をバッチリ装着し、いざ!シャワークライミングなどという言葉から連想される爽やかでスポーティーな感覚は全く無し。水がガッツンガッツン攻撃してくる。口の中にも耳の中にも何の遠慮も無しに突撃してくる水。水。発狂する水。どうにか見つけたホールドに両手でしがみついたものの水圧で体は振られ、方向感覚が鈍る。ヘルメットを被っているのにまるで効果無しかのように打たれる。轟音に混じり皆の声が微かに聞こえるが何を言っているのか分らない。もう何が何だか分らない。頭の中は真っ白で、ただただそこにへばり付き、もがき、声にならない悲鳴をあげる。そうした中でどうにかホールドを見つけるが、どうしても左足が上がらない。限界まで力を入れても上がらない。凄まじい勢いで打ちつけてくる水の力に驚く。親の敵のように打ちつけてくる。「絶対登らせないぞ!」と。でも、私は登らなければならない。僅かに置いた左足のバランスを崩さぬように右手で足を持ち上げる。数センチなのに水圧が私を許してはくれない。水VS私。体の中にある全てのパワーを出して上体を持ち上げる。遠くに聞こえる声。そして目の前にある、でも遠くにあるシュリンゲを掴み取る。まさにオロナミンCのCM状態!「ファイトーっ!一発っ!!」だ。あんなに格好良くないけれど(笑)掴み取る手と踏ん張る足が少しでも緩むと奈落の底。そんな修羅場だった。水中眼鏡に感謝。あの時の私があの状態で視力まで奪われたらなす術無く敗退していただろ

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