初外岩

日時: 2007年12月9日(日) 前夜発
山域: 城山(伊豆)
参加者: 坂田(L)・鈴木(泰)
行程: 省略

広河原沢で思わぬダメージを喰らって体はヘロヘロだというのに、この城山へのモチベーションは衰え知らずだった。泰とのクライミングに、これほど心躍らせている自分――。山を登り始めて間もない泰は、清水さん・志村さん・大和田さんと、みんなから引っ張りだこだ。それに物足りなさを感じて、「もっとやりたい」と欲が出てきたら一緒に登ろう、くらいの冷静さを装ってるつもりだった。けれど「ヒマラヤ」なんかに、ちょっと気のある素振りをされると、もう有頂天になってしまい、今後1年間の勝手なプランが次から次へと出てきてしまう始末。山へ打込み始めたこの1-2年で自分の中にため込んできたものが溢れ出すのを、とても抑えることが出来ないのだ。

渋谷駅23:30、泰にピックアップしてもらって城山へ向かった。目が覚めるまで快適に、たっぷり寝た。すき家で腹ごしらえをしてから南壁に取り付く。

・ホームボーイ(5.8)

泰、注目の1本目。この壁はジムと違って腕力に頼り難いということもあり、もしや苦戦するかと思ったが、あっという間に登ってしまった。なかなかやるな、と内心驚嘆する。余裕が感じられたので、ここで掛け替えをマスターしてもらった。これは失敗が許されないだけに、教える度にいつもドキドキものだ。下でいくらリハーサルしても、本番は上まで行って見てあげられない。けどすんなりやってくれたことが嬉しかった。

・アミーゴス(5.9)

ここは、いつもルートファインディングをミスってしまう。まぁどうとでも登れるので構わないのだが…。グレード分以上に、体感的に細かく感じたかもしれないが、ここも問題なし。

こうなるとついつい欲が出てきてしまう。マルチの気持ち良さを味わって欲しくなってしまった。ここで一気に岩の虜としてしまう作戦。夏には日本中の大岩壁を二人で総ナメにしたい、という野望を持っているのだ。

・エキスカーション(6p中4p目まで)

1p目: 5.10a
2p目: 5.10d(本来は5.10a)
3p目: 5.10c(2p目から切らずに一気に登る)
4p目: 5.10a

1p目を登り切ると目の前には3本ものルートが並んでいた。トポを持ってなかったので、取りあえず一番右側のが簡単そうだったので取り付く。後から調べるとこれが本来のエキスカーション(5.10a)のようなのだが、その時はパワームーブ系でイマイチな感じだったので、クライムダウンして止めた。泰は乗り気じゃなかったのだが、真ん中のルートは傾斜はあるもののボコボコだったので取り付いてみる。けどどのホールドも甘く、2本目以降登れる自信をなくして、これもクライムダウン。これは5.11aだったようだ。一番左側のルート、いかにも簡単そうで5.9を登ってもなぁと乗り気じゃなかったのだが、登ってみるとやばかった。しかも1本目のクリップが遠くてクライムダウンすら不可能。5回はトライしたと思うが、ようやく立ちこめ、一気に上がった。どうやら5.10dだったらしい。この勢いで3p目も連続して登る。細かい上にランナウト気味な5.10c、逃げまくりながら登った。泰はさすがに這い上がれずにいる。「行けるやろ?」と目線を送ると首を振っている。バックロープを垂らし、得意の腕力で登ってもらうことにしたのだが、このロープ、エーデルワイスの最新モデルで、細くて非常に伸びが良く、たぐって登るにはかなり効率が悪い。さすがに腕も限界に達しつつあるようだった。4p目(実際には3p目として登った)は嫌がらせのようにランナウトしていて恐怖だったが、ホールドやスタンスは豊富だったのは良かった。泰もさすがに疲れているようだ。意外に苦労している。日暮れが近く、追いかけてくる日陰と競争だ。最後の2m、ジリジリと苦労しながらも登り切り、日陰とほぼ同着。「よう頑張ったな!」よくも諦めずに這い上がってきたものだ。内心舌を巻きながらも、嬉しかった。ライバル意識を燃やしながら、切磋琢磨していけるパートナーかもしれない――。そんな期待が膨らんでくる。当然、負けるわけにはいかないが。

同ルート懸垂。50mギリギリ+25m。これも教える時には緊張する。リハーサルをしたところ、一発で決めてくれたので安心して下降する。この長い懸垂も初めてだろう。

めい一杯遊んだので、片付けている内にすっかり暗くなってしまった。

初外岩、ちょっと詰め込み過ぎたかなぁ(誤算の5.10dあったし)。今日はサービス精神を発揮するつもりが、自分もすっかり楽しませてもらった。サンキュ!またどっか登ろう。まさかもう懲りたなんてことは…ないよな?泰の記録を待つことにしよう。

(記: 坂田)

——-

静岡県伊豆市にある城山にフリーの特訓に向かった。ゲレンデは三つ峠以外に行ったことが無いので、前日は多少の緊張はあったが、高架橋の下にテントを張って寝たのが気持ちよく、当日はふわふわした気分で目覚めることが出来た。
車を道路脇に止めて、短いアプローチを登った。途中で坂田さんが人面石があるといい、その石を見ると確かに目のようなものがあった。近くには墓地があったため不気味すぎた。
 
岩場に着くと、すでにトップロープでおばちゃんが登っていた。僕たちは一番左端の方から登り始めた。最初は5.8を坂田さんが登り、僕はトップロープで一本登った。しかし上でロープの回収する段取りが分からなかったため、一旦降りてから懸垂下降の手順を教えてもらった。もう一度5.8を登り終え、懸垂下降の準備をしながら何度も大丈夫か確認した。自分のセルフビレーを外す時に、これが違っていたらと思い自分が落ちる所を想像してみた。そして、そうはならないと自分に言い聞かせてから僕は慎重に「こえー」と声に出しながらセルフビレーを解除した。エイト環を強めに握りながら、落ちない事を確認した。それから一度溜め息のような深呼吸をして下降をはじめた。下に降りてから、緊張のためか力不足のためか、すでに疲れがかなり溜まり始めていた。

次に5.9をトップロープで登りきれたが、どう考えてもここらへんが自分の限界に感じた。しかし、この後にマルチで3ピッチ登ることになる。

マルチのルートに選んだのは、南壁に向かって左側の少し日当たりの悪い所から登り始めた。この時の坂田さんの話しだと、いきなり10aから始まると言っていた。最初から軽いハングがあり、確かテンションはしたが、そんなに問題はなかったと思う。

しかし腕はかなり疲労が溜まり、この時点でこれ以上のグレードは絶対に無理だし、絶対に危険だと感じていた。

しかし問答無用で2ピッチ目が始まった。目の前にはルートが三つあり、一番左は2番目に難しそうで、真ん中は穴がボコボコあるものの見ただけで登るのが無理だとおもった。右側が一番簡単そうに見えていたが、一番簡単な所に挑戦すると言った坂田さんが何を思ったのか左側から行ってしまったので、もうついていくしかなかった。とは言っても、坂田さんもこの最初のハングにはかなり手を焼いていた。何度もテンションをかけたりして、色々試しているうちに結構な時間が経っていたと思う。

そして僕の番になり、最初のハングはどうやっても無理だと感じた。足を重視すれば手のバランスがとれなくなり、手を引っ掛ければ足が浮いてしまう状態で、軽くハングしている部分が本当に邪魔だった。本当は言いたくなかったが、坂田さんに「絶対無理です」と言うと、細いロープが垂れ下がってきた。自分はそれを「蜘蛛の糸」と命名した。

坂田さんは蜘蛛の糸を手に巻きつけて登れと言うのだが、ロープが引っ張れば引っ張るほど伸びるので、全く意味がなかった。

そこで、おもいっきりロープを引っ張ってから手に巻きつけてみたが、何度やってもロープが滑るために手から抜けていく。もう絶対に登れないと思って何度も坂田さんを見上げるが、坂田さんは待つのみだった。

それに自分自身ここで諦めるのが凄く嫌だった。テンションをかけてもらうのもロープを垂らしてもらうのも、全て負けの要素であったが、自分の心が折れてしまったことが悔しかった。体を鍛える時も、自分には負けない。昨日の自分に勝とうという気持ちをもって挑むようにしている。しかしこの時の自分のことは絶対に好きになれなかった。だから登るしかなかった。そして色々と考え試した結果、おもいっきり伸ばしたロープを手首に一巻きしてみた。するとロープは手から抜けなくなり、ロープをおもいっきり握るような疲れることも必要なくなった。しかもロープが元に戻る力を利用して右腕から上に引っ張り上げられるようになった。あとは手足でバランスを保ちながら、無様な格好をしながらハングを乗り越えた。

とにかく最難関は去った。しかし滑るロープを何度もフルパワーで握ったりしたため握力は無く、体を腕だけで引き上げようとしたため、腕もパンパンになってしまった。この後も休憩を幾度となく入れながらゆっくり登った。そして坂田さんの所に着いた僕は、もう心が完全に折れ、体も精神も疲れ果てたため帰りたいと言ってしまいたかった。
一刻も早く下山したかったが、「帰りたい」とこのとき言ってしまったら、この後にもう1ピッチ登ろうが登るまいが、一生後悔しそうだと感じた。それに、「こんな所で!」と思う気持ちもあり我慢した。でも心の中では坂田さんが下降するのをずっと期待していた。
 今思うことは、このとき「帰りたい」と口に出していたなら、もう二度とクライミングを好きになる事は出来なかったような気がする。だから口に出さなくて良かったと心から思う。

3ピッチ目は少しグレードも低くなり、体力もわずかに回復したので、2ピッチ目ほど精神的に追い詰められることはなかったが、上にいくほど疲れが溜まり、少し登るたびにロープにブラ下がらせてもらった。

足場もろくに無い所で長い時間ビレイしてくれ、僕には全然登れなかった所を登る坂田さんが、この日初めて凄い人に格上げになりました。ありがとうございました。
 
PS.
下降する際に初めて自分が吐き気がするほど緊張状態にいたことを知った。次はしっかりレベルアップして、さらにグレードを上げたいと思います。

(記: 鈴木(泰))

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