日程: 2011年1月22(土)前夜発
山域: 八ヶ岳(長野県)
参加者: 久世(L)・廣岡
行程: 美濃戸口 – 赤岳鉱泉 – 大同心基部 – 小同心クラック – 大同心基部 – 赤岳鉱泉 – 美濃戸口
1月21日夜11時に東京を出て一路美濃戸口へ。八ヶ岳美術館の手前あたりで道路を横断する鹿数頭の一団に2度も遭遇した。あまりに悠然としているのでクラクションを鳴らすとあわてて林の中に入っていった。美濃戸口に着いたのは翌22日午前1時20分頃。何とかチェーンをつけずに駐車場まで入れてラッキーだった。午前2時前、寝袋に入る。
3時間の仮眠で午前5時に起きた。同5時50分、美濃戸口を出発。月が西の空に白く輝いていた。凍てついた朝の月は格別に美しい。ヘッドランプをつけて雪の林道を急ぐ。赤岳鉱泉小屋には午前8時に着いた。小屋の寒暖計はマイナス11度。途中からすでに足の指が痛くなるほど冷たくなっていたので小屋に入って入口土間にあるストーブで足先を温めた。こんなことで手間取って小屋を出発したのは午前8時30分ちょうど。
硫黄岳方面に歩いてすぐ右手の大同心ルンゼに入り、少し行って左手の大同心稜を登る。一般登山道みたいにトレースが明瞭で歩きやすかった。しかし、これが結構な急登で少々へばる。ときおり雪がちらつき頬に風が吹きつける。寒い。手袋がカチカチだ。この先、天候は大丈夫だろうか。
大同心の基部に着くと、先行していた久世さんが岩の状態を見ている。しばらくして振り返り、「あんまり良くないね。」と言う。雪がかなり付いていてちょっと厳しいかもしれないというのだ。「まあ、とりあえず取り付きまで行ってみましょう」と前に進んだ。大同心の基部から小同心基部まで大同心ルンゼを見下ろしながらのトラバースが続く。何ヶ所かいやなところがあった。久世さんはスタスタと歩いていくが、トラバースが大の苦手の私はおっかなびっくりだ。そのせいで少し時間を食い、小同心の取り付きに着いたのは午前10時50分だった。計画では午前10時30分登攀開始だったから、予定より大分遅れている。行動食を口に詰め込み、急いでロープをセットして午前11時10分、壁に取り付いた。
1ピッチ目はフェース、といっても易しい岩壁を直登して左に転じ、そこからチムニーに入る。傾斜はきつくても難しくはない。ホールドが沢山あって面白いようにぐいぐい登れる。しかし、岩が冷たくて次第に手先がかじかんでくる。手指をこすり叩いて指先の感覚を取り戻しながら登る。
2ピッチ目に取り付いたあたりから、風が強くなって久世さんとのコミュニケーションが途絶えてしまった。しかも途中の岩にロープの一本が引っかかってしまってビレイ解除のシグナルが届かない。上から雪片が盛んに落ちてくる。きっと久世さんが岩に付いた雪を払いながら登っているのだろう。そのうち寒くて体が震え、つま先の感覚がなくなってきた。セルフビレイに体を預け足踏みを繰り返す。同時に靴の中で指先を動かす。その時晴れ間がのぞいた。暖かさが体を包む。こんなときこそ太陽のありがたさを実感する。
そして太陽がガスを払いのけてくれた。下を見ると白一色の優美な八ヶ岳の裾野が広がっている。美しい。本当に素晴らしい眺めだ。しかし、曇ると急に冷え込んで風が吹き体の芯まで凍えてくる。厳しいが下界ではとうてい体感できない瞬間だ。
ダブルロープの一本にテンションがかかった。大声で何度呼んでもビレイ解除の声は聞こえない。しかし、久世さんなら時間的にも大丈夫だろうと上がることにした。最初からちょっとかぶり気味の岩をのけぞるようにして登り、上部のチムニーに入っていく。そこを抜けて少し右にまわりこむと再びチムニー状の岩が出てくる。これが小同心クラックの核心だ。
岩の下まで行くとけっこう立っていて、一瞬、どうやって登るんだ?と思ったぐらい立っている。気合を入れて狭い溝に体を押し込みながら上のホールドを探す。腰に差したピッケルが引っかかって難儀したが、落ちないようにじわじわと体をせり上げるようにして登る。しかし、そこから先がわからない。見上げると左上に大きなホールドがある。それを両手でつかんで、えいや!と腕力で登った。そのホールドは上がってみたら小さな平たい岩で他につかむところがない。仕方なくその岩にまたがって小休止。しかし、今度はそこから立ち上がるのに苦労した。下を見ると左側は絶壁だ。なかなかの高度感。絶壁上の岩にまたがっているから両足はぶらりとしていて立ち上がれない。良く見ると左の足元に小さな岩の突起があった。そこにアイゼンの爪先をじわりと載せてゆっくりと体を持ち上げた。いったん体が起き上がると後は簡単だった。さっさと登る。しかし、最後のほうは広いチムニーに両手両足を伸ばして突っ張るようにして蜘蛛のように上がった。この2ピッチ目のチムニーは着雪が甚だしく、それが登攀を難しくさせたと思う。
久世さんの待つビレイポイントは吹きさらしの風で寒かった。ビレイしていた久世さんが感じていた寒さはハンパじゃなかったろうと思う。
小同心の頭までは階段状の岩を登る。ここは私が先行して頭まで行った。頂稜に立ったとき突風にあおられて一瞬体がよろめいた。おおっと、危ない、危ない。急いでセルフを取ってロープを引き上げるとすぐ久世さんが上がってきた。
ここから痩せた尾根を20メートルほど下ったところに大同心ルンゼへの下降点がある。そこから懸垂2回で、アプローチのトラバースルートに出る。2回目の懸垂は空中懸垂があって楽しかった。
大同心の基部に戻ったのが午後2時50分。一気に駆け下りて赤岳鉱泉を午後3時半に通過。あとはずっと走って下り、途中美濃戸の赤岳山荘で15分ほど休憩後、美濃戸口に着いたのは、まだ陽の高い午後4時50分だった。近くの道の駅の温泉に寄って、途中少し渋滞があったが午後8時には東京に着いた。
今回はやや強行軍だったが、短時間で行動するための良いトレーニングになった。たまにはこんな山行もいいものだ。
(記: 廣岡)