北尾根、敗退

日程: 2007年9月1日(土) – 2日(日) 前夜発
山域: 前穂高岳北尾根(北アルプス)
参加者: 坂田(L)・土井
行程:
第1日目: 上高地(7:45) – 徳沢園(8:55/9:05) – 横尾(9:52/10:10) – 吊り橋(10:50/11:00) – 涸沢(12:10/13:00) – 5・6のコル(14:30)
第2日目: 5・6のコル(7:05) – 涸沢(7:58/8:15) – 横尾(9:40/10:15) – 徳沢園(11:10) – 上高地(12:20)

鵬翔に入会して初めての夏合宿が西穂高岳 – 槍ヶ岳の縦走であった。その時に見た北尾根はあまりにカッコ良く感じて、かなり興奮した。恐らく、最初に「登りたい!」と感じたバリエーションルートだったと思う。それなのに取り付く機会を何度か逃し、ここまで来てしまった。結果は敗退だったのだが…。

9月1日(土) 曇り時々晴れ

レンタカーで沢渡駐車場に到着したのは2:30。今日は涸沢まででも大丈夫という甘えからか朝寝坊の悪い癖が出てしまった。上高地を出発したのは先週末よりもずっと遅い。今日は土井さんと一緒だしのんびり気分でもあったのだが、すぐに異変に気付く。土井さんの足が速いのだ。「えっ?」と思いつつも弱音を吐くわけにも行かず、ペースを合わせてついていく。23キロ程度のザックが意外に重く感じられ、アイゼンを車に置いて来るの忘れたな~、などとせこい考えが頭をよぎる。どうも最近、重い荷物を億劫に思ってしまう傾向にある自分が嫌だ。最後の登りをかったるく感じながら到着した涸沢は相変わらず良い所。稜線はガスに覆われているが、時々除く晴れ間で暑いくらいである。午後はまだ始まったばかり。ついついウダウダと過ごしてしまったが、二人で10リットルの水を確保して5・6のコルへ。

ここからは自分にとって未知の世界だが、昨年の11月に単独で5・6のコルへ登った土井さんが先導してくれる。雪渓は昨シーズンと比較して圧倒的に少ない。所々に見える雪渓も、透き通りそうな厚さに感じられ、雪渓が途切れたところには水溜まりが出来ている。もはやアイゼンはザックの中でただの重りとして存在しているだけ。涸沢ヒュッテからは5・6のコルを直接見えないが、最も顕著なコルなので間違えようもないし、ルートは非常に明瞭だ。ペンキ・ケルン・トレースがロスを防ぎ、アプローチの快適さを約束してくれる。先週末、北鎌のアプローチに費やした12時間とは雲泥の差だ。5・6のコルには3張程度分の快適なスペースがある。3-4人用のテントを持って行ったが、2-3人用であれば最もフラットな場所に張れるだろう。土井さんイチ押しのちょうど岩壁が風を防いでくれるところに張った。ちょっとだけ凹凸を我慢しなければならないが、ザックを置いてしまえば気にならない程度だ。この土井さんの判断が良かったと、夜中に分かることとなる。

奥又側はすっかりガスっているが、奥又白池が一瞬だけ望めた。こちら側のトレースも見通せる範囲では顕著なようだ。

夕食はご飯+味噌汁だけで構わない(食事も最近横着だな…)と思っていたが、「気が向いたら」おかずを、というメールを真に受けてくれた土井さんが豪華に準備してくれた。鰹の生姜煮・昆布のゴボウ巻き・チップスターなどだ。そして焼酎も。感謝!

9月2日(日) 雨後曇り時々雨

0時頃に強風で目が覚める。土井さんはそれまでに何度が起きたらしく、雨も断続的に降っているとのこと。その時はあまり気にしていなかったが、壁を支えなければならない程にテントを揺さぶる風の間隔が段々と短くなり、2時40分頃、「バキッ」という音と共にポールが折れた。それでもテントの自立が保たれていたのは助かった。4時半を過ぎ、取りあえず起きた。風は相変わらずだが雨は降っていないようだ。望みを持ちつつ、コーヒーを飲み、カップうどんを食べる。しかし、出発予定時刻が近付くにつれ、雨脚が強まってくる。明るくなってきた外へ顔を出すと目の前の5峰も全く見えない。撤退することを決断した。願わくば奥又白の方から偵察を兼ねて降りたかったが、それも無理だと判断した。そこへ2パーティが上がってきた(共に男女2人パーティ)。驚いたが、この状況で登っていっってしまった。これにはかなり動揺した。それでも判断を覆すことなく、ポールが突き破ったテントを撤収し、涸沢を下っていくことにした。100メートルも降りれば視界が広がった。下の方は雨も上がっている。

登れたのでは?

何度も自問自答する。敗退の理由をこれでもかと挙げる。雨・風・視界・パーティの力量・こんな時に登ってもつまらないのでは?・北尾根ごときでケガでもしたらどうなる?いつでも来られるじゃん…。けれど、2パーティが前進していった事実に、敗北感を否めない。

敗退を決めることほど嫌なことはない。他人が決めてくれたら、とも思う。「なんで?」と文句を垂れながら従うだけだ。

「勇気ある敗退」、そんな言葉は使えない。敗退は最も楽な選択肢なのだ。悪条件の中で、「行ける」と確信を持って決断することこそ難しい。これまでの決断した敗退の中で、本当に敗退すべきだったと言えるのものが一体どれだけあるのだろう。

涸沢からの下り、再び土井さんがトップ。相変わらずハイペースだ。1年前の北岳四尾根とは別人のようである。体力トレーニングと山行への頻度が上がっている成果に違いない。膝の調子もまずまずのようだ。横尾で生ビールを期待したが無かった。缶ビールを、昨夜残しておいた鶏の炭火焼きをおつまみに飲む。一層加速するペースに、あっという間に汗として流れてしまったけれど。

四尾根も一度目は雨で敗退した。全く同じパターンだ。ということは二度目は快適なクライミングを楽しめるはず。土井さん、リベンジしましょう!

(記: 坂田)

この記事が気に入ったら
フォローしてね!