日程: 2010年6月20(日)
山域: 鶏冠谷右俣(奥秩父)
参加者: 中村・土井
行程: 西沢渓谷駐車場(8:05) – 東沢下降 – 鶏冠谷出合(8:45) – 魚止ノ滝 – 奥飯盛沢出合 – 3段12m滝 – 20m逆くの字滝 – 二俣(11:30) – 25m大高巻ゴルジュ下降 – 30m滝 – ナメ連続 – 40m滝手前で遡行終了(15:00) – 戸渡尾根(近丸新道)登山道(15:40) – ヌク沢渡渉 – 西沢渓谷道 – 駐車場(17:40)
焼き鳥、水炊き、ローストチキン…。無類の鶏肉好きにもかかわらず、「鶏」という名のつく地名にはトンと縁がない。近畿には鶏冠井町(かいでちょう)とか闘鶏山(つげやま)といった難字の地名もあるが、どうも関東には少ないようだ。今回は、中村さんに誘われて、笛吹川鶏冠谷右俣で「鶏」の初体験をしてきた。特選激賞という触れ込み通りだったが、一週間降り続けた雨のせいで手強い遡行となった。
ガスの切れはじめた西沢渓谷駐車場に着いたのは7時35分。娘が3歳の時に訪れて以来なので、実に12年ぶりの再訪だ。沢支度をして出発したが、記憶をたどるように渓谷道を歩く。
ナレイ沢、ヌク沢を越え、すぐに東沢分岐。吊り橋から見下ろす東沢は水量が多く、ゴーゴーとうめている。鶏冠谷出合の河原には、立派な標識の打たれた巨木が一本。その巨木も水没し、中村さん曰く「膝まで濡れて渡渉するような場所ではないのにね」。
開けて明るい東沢に比べ、鶏冠谷入渓点は鬱蒼として暗い。まるで、森の井戸の底に引き込まれるような錯覚がし、この先に美しいナメ滝があるとは思えない。それでも、一週間前の丹波川本流と比べると澄んだ水は美しく、ついニンマリとしてしまう。小滝をサクサクと越えると10m魚止め滝。左岸を登れるらしいが、落ち口から激しく水を飛ばす壁に取り付く気にもならない。
森は鮮やかな緑を惜しみなく魅せてくれ、単調になりがちなゴーロ歩きも快適だ。平水時は何ともない4m滝も、水量が多いとスタンスとホールドが全く見えない。これに尻尾を巻いては何のための沢登りか分からない。腰まで淵に入り、泡立つ水流に手足を突っ込む。でも、ヘルメットをガンガン叩く水に恐れをなして一回退却。ニヤニヤと見守る中村さんの姿に闘志に火がつき再び突入!鶏冠谷の水は容赦ないが、チキンハートを奮い立たせて立ち込む。すると、あっけなくホールドも見つかった。
奥飯盛沢の出合で一本。登れば絶悪5級の登攀となるF1がそそり立っているが、こんな滝を遡行するパーティーがあるのだろうか。
3段12m滝は、2段目を左岸から小さく巻き。そして、すぐに20m逆くの字滝だ。過去の記録によると、ここはキャーキャーワイワイ楽しみながら登れる鶏冠谷のハイライトらしい。ところが、金曜日まで5日間降り続けた雨のせいで、水量が半端じゃない。気を抜くと激流に押し戻されそう。ザイルを出して突破したが、これぞ沢の醍醐味だろう。
二俣からは右俣を進む。25m滝は登れないので支尾根を大高巻き。ルート図より進んでしまったらしく、懸垂下降2発でゴルジュに降り立った。ここで気づいたのは、谷が荒れていること。倒木があちらこちらに突き刺さり、景観を台無しにすること甚だしい。倒木・落石・斜面崩壊はナメ滝まで続き、これさえなかったら右俣は美渓なのかもしれない。
鶏冠谷右俣で最も手こずったのは、このゴルジュ出口の30m滝だった。「左岸の倒木沿いに登り、中段のナメ状の滝を右岸に渡る」とルート図に記してある。中段まで登ってみたものの、水流の多いツルツルの滝を確保なしに対岸へトラバースするのは無謀というもの。では、草付きを上がるのかというと、所々に生えているミズの葉は簡単に剥がれしまうし、その上部は外傾しているように見えた。仕方なく右側の泥付きルンゼに挑んだが、これも相当悪く進退窮まりそう。下から「もう、それ以上登らないでくれ」と指示され、やむをえず退却した。
ゴルジュの底まで戻り作戦を練り直す。「さて、高巻くと言っても、いったいどこを?」と見回す。「ゴルジュ右岸の泥付きの壁しかないね。僕が行くよ」と、中村さんが果敢にアタックする。確保したくても、支点となるような木も岩もない。ハラハラ見守るなか、ジリジリとバランスで登っていく。踏み跡があるらしく10mほど登り、ザイルを出してくれたことに感謝。ここからはツルベで確保しながら高巻いたが、このゴルジュ脱出に1時間……。トホホであった。
帰宅して気づいたのだが、この30m滝を大半のパーティーは右岸バンドから簡単に越えていた。水量の多さで見落としたのか、或いはルートミスだったのかは定かではない。いずれにせよ、増水すると難易度が数段アップすることだけは痛感した。
この後は、倒木で荒れ気味のナメを遡行し、午後3時過ぎに40m滝。ここで、沢から離れ、左岸から近丸新道を目指す。かすかにあった踏み跡は獣道となり、最後は石楠花の枝と戦うヤブこぎ。15時40分に登山道に出たときは、沢用パンツには特大の穴が出来ていた。
(記: 土井)