日程: 2006年12月29日(金) – 2007年1月2日(火)
参加者: 平野(L)・坂田
行程: 本文参照
冬の剱岳(早月尾根)は入山20日以前に富山県への登山届が必要で、予備日7日間の装備・食糧・燃料を準備する為、事前のトレーニングメニューを含め、気力・体力共に情熱を持って挑まなければならず、その頂きに立てた時の達成感や充実感は、それを経験した者にしか味わえない格別のものである。
今回の正月合宿のコンセプトは、鵬翔山岳会東京支部の若手リーダーである坂田さんに、本格的な冬山を経験してもらう事。
始まりは2006年の夏山合宿を計画する際、剱沢をベースとした剱岳の集中登山の提案からだった。
2006年は最終的に7人の新人が入会し、既に夏合宿前には5名の新しいメンバーが揃っており、会としての力量を高めるうえで必要と思われる雪上歩行や登攀経験を積むために、夏の剱岳合宿を提案した次第だが、各自の休みの日程等で結局剱岳合宿は実現せず、錫杖岳のクライミングで夏合宿を終えた。
その後、正月山行を計画する時点で、指向や経験の違い・お互いの実力を把握しきれていない新しいメンバーで、会として同じ山域とするか別パーティーとするか検討する際、坂田さんから、出来るだけ会のメンバーが参加できる冬合宿を考えなければいけないが、「冬の早月尾根に行ってみたいです」の一言で、私自身5年振りとなる正月合宿を決意した。
12月29日(金)
天候:曇り時々雪
東京駅7:00発の新幹線で長岡を経由し特急で滑川に向かうが、日本海側は天候が悪く列車は約1時間遅れで滑川駅着。
運よく富山電鉄への接続が順調で、何とか昼前に上市駅に到着。
上市駅で昼食を済ませ登山靴など山行き装備の準備後12:30上市駅発。
タクシーで伊折へ向かう途中、スーパーで入山初日用のステーキと缶ビールを購入し、車の入る最終地点である伊折13:15着。
伊折から馬場島へは約8キロの道程で、時折湿り気のある降雪の中を富山県警の雪上車に抜かれながら進み馬場島16:30着。
それにしても坂田さんのペースは速い、私よりはるかに重い荷物を担ぎ黙々と歩くので、進むうちに体は汗でビッショリ。
馬場島には4~5人用テントが1張りのみで、入山基地となる馬場島で富山県警察からヤマタンを受け取り、この日はテントを張らずに正月に営業している馬場島荘に宿泊する事とした。
馬場島荘にはガイド登山客が1名と、近くを散策する2名のお客の他、常連らしき方が1名のみ。
12月30日(土)
天候:晴れ
5:00起床、事前の天気予報では曇りだったが天候は回復に向かっており、星を眺める事が出来た。
馬場島は前日から降り続いた雪が腰位まで積もり、ワカンを付け馬場島荘6:40発。
我々が登り始める時点で4~5人用テントはそのままで出発する気配はない。
歩き始めて直ぐに腰までのラッセルとなり、早月尾根登山口では早くも頭から汗が吹き出る。
松尾平への登りにあえぎながら後続のラッセル応援を期待していると、ようやく明治大学OBの5名パーティーが近づき、空身で登り返すローテーションによる7人交代のラッセルで頑張る。
傾斜のキツイ登りでは時折胸までの雪で時間ばかり経過しなかなか高度を稼げない。
程なく十数名の後続者が加わるが2~3名のラッセル参加のみに留まった。
結局この日は最後のラッセルを終えた後1,560m付近の幕営地を確保し15:10着。
ペミカンのクリームシチューをブランデーで味わいながら、夕食を終えシュラフに包まるが、月夜の星空の基マイナス10度で思いの外冷え込みあまり熟睡といえなかった。
12月31日(日)
天候:晴れ
4:00起床、本日も星空の基で朝から晴天が続きワカンを装着し1,560m付近の幕営地6:45発。
すぐ上部で幕営している2張りのテントを追い越し、明大OB5名パーティーと合流して再び7人交代の空身ラッセルを開始する。
早月小屋からの情報では、28日午後から降り続いた雪で閉じ込められた東海大学パーティーが下山する予定との事で、ラッセル交差を期待するがなかなか降りてくる気配がない。
早付小屋手前のピークを見渡せる付近に差し掛かる所で、ようやく10名近くの東海大パーティーと合流出来た。
降り続いた雪で早月小屋幕営地で閉じ込められたのであろう、2日間の晴天でも登頂を諦め下山の判断をせざるを得なかった東海大パーティーを気の毒に思う。
早月小屋には12:20着、雪を整地した後テントを設営していると、早くも明大OB5名パーティーは翌日の山頂アタックに備えトレースを付け始めた。
我々も後を追うように後ろに付くが、ラッセルローテーションに加わる事なく2,500m付近で時間切れとなり早月小屋の幕営地へ戻る。
幕営地には階段状となったトレースを辿り20名以上の登山者が登って来た。
2日間のラッセルを要した登りも、階段状のトレースがあれば優に1日で登れてしまう。
大晦日の夜はペミカンのカレーを日本酒で味わい、象足にホカロンを入れて翌日のアタックに備え万全の体制でシュラフに包まり新年を迎えた。
1月1日(月)
天候:晴れ
3:40起床、目覚めのコーヒーの後、ラーメン・カボチャのスープ・お茶等の水分をタップリ補給し、5:30発。
先行する十数名のパーティーにルートを空けて頂き、再び明大OB5名パーティー合流後、ラッセルローテーションを繰り返しながら登高を続け、獅子頭手前でトップにたち2人でルートを刻む。
暫く交代で膝うえラッセルを続け、次第に疲労を覚え私のペースが落ちた頃、後ろの坂田さんが交代しましょうと声を掛けてくれる。
雪壁・岩稜・ラッセルを繰り返し前剱からのルートに合流する分岐を過ぎるあたりで、坂田さんに今年一番の剱岳登頂を促すが、リーダーが先に登って下さいと謙虚な姿勢。
冬の剱岳は3回目だから先に登ってよと言っても、良いですよと言うばかりで結局私が先に立たせて頂いた。9:50山頂着。
剱岳山頂では360度の展望を満喫し、テルモスに詰めたブランデー入りのミルクティーを味わい写真撮影の後は早々に下山を開始する。
天候が良いうちに出来るだけ安全地帯へ下山する事を優先し、途中風の影響で所々消えかけたトレースを辿り、山頂へ向かう十数名のパーティーの脇をすり抜けながら結局ロープを使わずに下降を続け早月小屋の幕営地11:45着。
登攀は登りより下りがはるかに難しく、ロープの使用を判断するのはお互いの力量を見極める重要な要素であると思う。
12:50早月小屋の幕営地のテントを撤収し、7日分の食糧・燃料の重荷にあえぎながら下降を続け馬場島には16:30到着。
富山県警察へヤマタンを返却し、初日にお世話になった馬場島荘に宿泊して暖かい風呂で冷えた体を温めた後はビールで乾杯。
馬場島荘には一緒にラッセルした明大OB5名パーティーも到着した。
いつもながらに無事生還出来た冬山の後に飲むビールの味わいは最高である。
1月2日(火)
天候:晴れのち曇り
6:30起床、朝食後にパッキングを済ませた後、9:10伊折へ向かう雪上車へ同乗させて頂き伊折9:30着。
明大OB5名パーティーとジャンボタクシーで上市駅へ向かい、10:40発の富山電鉄で一路東京へ戻る。
剱岳が初めての坂田さんの為に、11月の偵察山行に同行して頂いた清水さん・塩足さん、旗用のタケを準備して頂いた飯田さん、竹ペグ・サイザルの準備の安達さん他、本当に色々な方々にお世話になり、2007年の最初に早月尾根を経由し剱岳の頂に立つことが出来た。
鵬翔山岳会のメンバーは無論、富山県警や関係各所の皆さんに感謝したい。
(記: 平野)