日時: 2008年12月27日(土) – 30日(火) *26日前夜発
山域: 八ヶ岳
形式: アイスクライミング&バリエーション:定着
参加者: 国府谷(L)・掛川・芳野・廣岡・松林・志村・土井
行程:
第1日目: 美農戸口駐車場(8:30) – 赤岳鉱泉(9:00) – 裏同心ルンゼ(15:05) – 赤岳鉱泉
第2日目: 赤岳鉱泉(6:10) – 中山尾根取付(8:00) – 赤岳鉱泉(10:40) – 硫黄岳往復- 赤岳鉱泉
第3日目: 赤岳鉱泉(6:05) – 三叉峰ルンゼ取付(8:00) – 石尊稜(10:40) – 石尊峰直下縦走路 - 地蔵尾根 ‐赤岳鉱泉(15:15) – 美農戸口(17:50) – 茅野経由帰京
12月26日
22:00松林車は新宿駅集合(松林・芳野・土井)。志村車22:30出発(志村・国府谷・廣岡)。中央道PAで合流後、小淵沢道の駅でテントを張り、軽く飲んでから仮眠。
12月27日(快晴)
08:00美農戸口駐車場出発。冷え込みがきつい。鵬翔に入って初めての年末合宿だ。初日夜と2日目朝の食当を仰せつかったため、ザックが重い。直前の集会では「質素でいくべき」という声と「定着なのだから、それなりに工夫を」と、意見が割れた。個人的には、山の食事は軽量化するよう努力している。行動食はナッツ類や飴。単独テント泊では「カップ麺のみ」ということもあるし、酒は200ミリリットル程度だ。しかし、今回は美味い飯が評判の赤岳鉱泉の目の前で幕営するのだから、初日からカップ麺では皆に申し訳ない。そんな訳で、豪勢な晩飯を用意したのだが、冬山フル装備+ガソリン+食料は、いざ背負ってみるとかなりの重荷だった。しかも、半透明の袋に入れた食材がザックからはみ出ているらしい。後ろの芳野さんから「夕飯は鶏ダンゴね」と笑われてしまう。いや~恥ずかしい限りだ。北沢と道を分ける直前に阿弥陀が見える。こうして重いザックを担ぎ、重登山靴で雪を踏みしめると、冬山に入る感覚がよみがえり、全身にファイトがみなぎる。背中は汗でビッショリだが、とにかく、雪に覆われた林道を黙々と歩く。
午前11時前、赤岳鉱泉着。柔らかい冬の日差しの下、鉱泉は泊まり客たちで華やいでいた。生ビールのジョッキを手にした御仁もいらっしゃる。が、そんな別世界を尻目に、我々は雪面を整地して幕営だ。テントの中でお茶をいただいて一服。ホッとした。
体調がイマイチだという松林さんが心配だが、国府谷・芳野・廣岡とともに裏同心ルンゼへ。立派なアイスアックスこそ背負っているが、それは見せかけ。実は小生、アイスクライミングが初めてだ。前を行く猛者3人の背中を見据えならが、内心「お前は氷瀑を登れるのか?」と自問自答しながら歩き続ける。意気地ないというか、何と言うか…。
さて、肝心の裏同心ルンゼだが、トレースがまったくない。のっけから膝上ラッセルとなる。人気のアイスルートと聞いていたのだが…。先行する3人と比べ鈍重なせいか、所々で腰まで踏み抜いてしまう。それでも、1時間弱でF1に到着。廣岡さんは「傾斜60度ぐらい。優しいよ」と励ましてくれる。国府谷さんリードの後、いざ初体験。緊張の瞬間だ。アックスは氷に快適に突き刺さり、15mF1は、あっけなく終わってしまった。 F2は本来なら3段40mらしいが、雪に埋もれて2段しかない。ここも、国府谷さんの登った姿をシッカリと瞼に焼きつけてトライ。薄い氷の下を水が流れているのが見えて、やや緊張したが、 実に楽しく突破できた。無論、後続の廣岡・芳野ペアはサクサクと登ってくる。たいしたもんだ。F2からは、とにかく一人でラッセル。場所によってはズブズブとヘソまで落ちてしまう。 F3も問題なし。落ち口に立つと、深い蒼空をバックに大同心が姿を現した。 白と青だけが支配する静寂のルンゼ。「登山者が多いから」という理由で敬遠していた八ヶ岳だが、一人よがりな思いだったことに気づく。
その大同心をバックに、門のような氷瀑が頭上にある。フカフカの雪が詰まったルンゼを、あそこまでラッセルするのに30分?いや下手をしたら40分かかるかも…。追いついてきた国府谷さんと芳野さんで協議した結果、今日は「タイムアップ」。残念だが、既に午後4時近い。「ルンゼ左岸の稜を超えれば大同心稜のはず」という推測の下、廣岡さんとラッセル。しかし、上がってみた支尾根の下降は相当厳しそうなため、裏同心ルンゼを忠実に下降することに。こうして、オレンジ色に染まるルンゼを懸垂2回を交えて下降し、小生の初アイスクライミングは幕を閉じた。「次回は大同心の肩までアイスを楽しみたい」。そうこう考えながら歩を進めるうち、鉱泉に帰着してしまった。
「酒、何を飲む?」「ご飯食べてから」などという会話から推測するに、周囲のテントは既に宴会モードに入っている。我々も負けじと、MSRに火を入れた。
12月28日(雪)
04:00雪。午前1時に外に出た時は月明かりが煌々としていたが、起床した4時には雪だった。今日は芳野さんをリーダーに、廣岡さんと共に中山尾根に行く予定。晴れて欲しいと願いつつ、午前6時にテントを出発だ。国府谷・松林・志村の3人は阿弥陀北稜。
中山乗越から、林の中をジグザクに高度を上げて取付を目指す。残念ながら、ヘタレの小生、またしても芳野・廣岡のペースについてゆけない。途中で「KIZI」もあり、5分は遅れただろうか。森林限界を超えた小さな雪稜で追いついたが、天候が悪い。風は激しく、横殴りの雪。稜線は雪雲の中に沈んで全く見えない。取付直下のリッジで、引き返す3人パーティーとすれ違った時から嫌な予感がする。そして、風雪の取付点でセルフビレーを取ったものの、先行しているクライマーが1ピッチ目上部で動かない。「相当悪いよ」「どうしようか」とセカンドと談合中だ。そして、ついにトップが懸垂で降りてきた。「この吹雪の中、上部岩壁を登る自信がない」と。
決断はリーダーの芳野さんに一任したが、結論は「降りましょう」。風と雪が乱舞する中、引き返す。昼過ぎに無人のテント帰着。昨夜の残りのウドンを温めなおし、ようやく身体の震えがおさまったと思ったら、上空のガスが切れはじめた。そして、あれよあれよという間に青空が広がった。このままテントにいるのも癪なので、硫黄岳をピストンすることに。1時間40分で頂上着。空はすっかり晴れわたり、数時間前に敗退した中山尾根取付が深い谷底を隔ててはっきりと見える。「来年こそ登るからな」「それまで待っていてくれよ」。中山尾根に呼びかけて硫黄岳を後にした。
12月29日(快晴)
04:00 凍てついた空に数万の星が輝いている。快晴を約束してくれる兆候だ。2時間後、国府谷さんをリーダーに、廣岡さんと一緒に出発。三叉峰ルンゼから石尊稜を登るつもりだ。中山乗越へ向かい、橋を渡って一本目の踏み跡を沢の中へ入ってゆく。途中、二股を左岸にルートを取ると、右側に石尊稜が派生している。石尊稜へのトレースと別れ三叉峰ルンゼをラッセルしてゆくと、6人パーティーに追いつく。彼らは無名峰を目指しているようだ。ルンゼを詰めてゆくと、核心のF1。本来なら垂直の氷柱12mが雪の急斜面まで届いているはずだが、肝心の氷柱がない。今年は発達しなかったらしい。ハングした草付の斜面が威嚇するように立ちはだかっているだけ。これには国府谷さんもお手上げだ。
左の岩のバンドにボロボロの支点とスリングが2本ぶらさがっている。ここは左上できるようだが…いやらしい。外傾しているうえ、もろい岩から水がしたたっている。ルンゼ上部には立派に発達した蒼氷が舌を突き出して、「登りにおいで」と誘ってくれているが、さすがに無理だろう。「今年の三叉峰ルンゼはダメだな。あきらめしょう」とリーダーの国府谷さん。地球温暖化がうらめしい。
三叉峰ルンゼを断念し、この取付から急斜面をトラバースして、雪壁を登ると石尊稜の下部岸壁。国府谷・小生・廣岡の順番で取付に集合し、さあ、気を取り直して石尊稜チャレンジ。
1ピッチ目のスラブはIII級+らしいが、けっこう難しい。「え~、ホールドないよ」と、国府谷さんも苦しんでいる。垂壁を10m直上して、バンドを左に登っていく。2番手は小生。確かにホールドは薄い氷雪に覆われてい手細かいし、草付きが何ともいやらしい。岩角にアイゼンの爪を乗せ、バイルを必死に打ち込む。本当にIII級+か、ここは…。「こわい!」。心底そう思う。でも、この瞬間が楽しい。もう一度「こわい」と呟いてみると、もう先ほどの恐ろしさは感じない。体重のかかっている左足がプルプルと痙攣しかかっているが、右手のホールドを探ると、ちゃんと手がかりがある。ぐい、と身体を伸ばすと、うまくいった。うまく登れると、スカッと気持ちがいい。スラブを降参させたんだと、満足しながら国府谷さんの下に登ってゆく。
2ピッチ目は40mのスラブと草付。1ピッチ目ほど難しくなく、スラブを直上して草付きを登るとリッジに出る。国府谷さんがビレイしている上部でセルフを取る。登攀の緊張から解放されて周囲を見まわすと、展望は素晴らしく、北アルプスの山々が連なっている。
この先は、上部岩壁まで急な灌木帯の草付き。小ピークに出てから雪稜となるが、ロープが岩角に挟まりびくともしない。リードの国府谷さんのコールは聞こえないし、ビレイしている小生の声もリードに届かない。意を決して登ってみると、そんな状態。いかに笛が大切かが分かった。 この後は快適な雪稜が続き、昨日の荒天がウソのようなポカポカ陽気の中を登ってゆく。
広い雪壁を上り詰めると、大岩が遮るように上部岸壁が立ちはだかっている。我々は、敢えて岸壁登攀せず、右側の雪壁を3ピッチトラバース。最後に急な草付をダブルアックスで2ピッチ登って夏道に出て終了。ガッチリ握手した後は、地蔵尾根を飛ぶように降り、皆の待つ赤岳鉱泉のテン場へ。小生と廣岡さんは、今日中に下山しないといけないため、荷物をまとめて美濃戸へと出発する。バスの最終便には間に合わなかったが、八ヶ岳山荘で汗を流してサッパリとした。価値ある合宿だった。皆さん、ありがとう。
(記: 土井)