日時: 2006年9月30日(土)~2006年10月1日(日)
メンバー: 坂田(L)・廣岡・坂本・土井
9月30日午前零時 新宿駅南口集合。レンタカーで芦安へ。
03:00村営駐車場で坂本氏と合流。仮眠 04:25起床 05:10バスで広河原へ。曇天。06:40 広河原発 08:25 二又 09:32 バットレス沢分岐(大休止10:05発)
【9月30日 bガリー大滝~4尾根取りつきテラス】
10:51
bガリー大滝取りつき着(2パーティー取り付き中、しばし待機)
11:30
大滝1ピッチ目。坂田氏がオールトップのシングルロープクライミング。セカンド廣岡とサード坂本がプルージックで続き、ラスト土井の順。赤茶けた岩のクラックをゆく。
12:33
大滝2ピッチ目は凹部からスタート。細かいスタンス・ホールドを拾いながら登る。青空の下のクライミングは快適。
12:40
ザレ場を登り横断バンドを目指す。途中からルンゼ状の悪場になり、落石に気を遣う。後方から神戸労山6人衆が追い上げてくる。鵬翔の共通の知り合いがいるらしい。横断バンドは樹林帯のトラバース。cガリーを渡りきり、前回ビバークした小テラスから80㍍ほど急斜面を登る。
13:17
4尾根取りつきテラス着
13:40
1ピッチ目、有名なクラックだ。坂田氏取りつき。想像していた以上に難しそう。坂田氏は右足を高く上げ、クラックの最初の踏み場に左足を置く。さらにフットジャムで登ってゆくのだが…3人とも全く異なるムーブで登ってゆくのが面白かった。廣岡氏は両手でクラックの踏み場をつかみ力で捻じ伏せる感じ。坂本氏は坂田氏に近い感じでバランスよくクリア。さあ、小生はどう登ろうと思案するが、当然岩は何も答えてくれない。
15:11
小テラスで確保した3人が降りてこない。とにかく降りてこない。待つこと30分以上、坂田氏から「降ります」のコール。このコールをきっかけに、ビバークしたくない神戸労山はクラック右から一気に追い抜いてゆく。この後3人が懸垂で降りてくる。
16:00
テラスでビバーク決定。ツェルト2張り設営。このテラスは広いが、一角を除き傾斜しているので設営に向いていない。廣岡ツェルトは平らなスペースに張り、坂本ツェルトは傾いた斜面に張る。
16:40
雲上の宴スタート。ヘルメット姿で飲む、というのは下界では想像しがたいが…落石の危険があるのだから仕方ない。まず乾杯。コッヘルでいただく焼酎は五臓六腑にしみわたり、いい気分である。クリーム色のガスで視界はゼロだが、シュンシュンと沸くお湯が頼もしい。今宵のメインディッシュはキャベツ・エリンギ・豚肉の即席キャセロール。地鶏焼き鳥とザーサイ、納豆まであるのだから居酒屋丸出しといった感がある。
17:16
ガスが消え、早川尾根と八ヶ岳が姿を現す。遠くに富士山も見え、明日の登攀に思いを馳せる。
18:50
就寝。狭い廣岡ツェルトには坂田氏が入る。2人分の荷物をギューギューに詰め込んだため、まるで死体袋のよう。チャックを閉めれば男2人が肌と肌を合わせて眠る“愛の巣”完成だ。「ア、それは僕の手です」など妙に艶めいた声がするのだから笑ってしまう。坂本ツェルトは広いが、踏ん張らないと身体がずり落ちてゆく。熟睡できなかったが、外気温1度、ほぼ無風。しかも降雨ゼロ。極めて恵まれたビバークだった。
【10月1日 4尾根登攀】
04:00
起床。3時起床のつもりが寝過ごす。ツェルトから這い出て、空を見上げると星が見えず生暖かい。天候悪化の兆しのように思え不吉だ。眼下の大樺沢にはヘッドランプの塊が二つ瞬いている。前夜、広河原に泊まったパーティーが4尾根を目指しているようだ。我々は、ゆっくりお茶を飲む。
05:42
日の出。バットレスの岩が茜色に燃えあがる。頂上に抜けるまで何とか天候が崩れないで欲しい。
06:02
1ピッチ目(40㍍)。3人が登りきり、いよいよ小生の番。クラック初挑戦だが、どうも先行3人と登り方が違う。3人のような登り方を真似する自信が持てないせいだ。まず、クラック手前に張り出した岩の小さなスタンスに左足爪先を乗せ、そこを支点に右足をクラック右下部の岩に置き、身体を伸ばし左手をクラック手前の割れ目に押し込む。そうすると、最初の明瞭な踏み場に両足で立つことができた。ただ、クラックに入れた足が外れそうになり相当焦ったが…とにかく最初の難関クリア。
06:41
2ピッチ目(35㍍)。階段状の岩場をトラバースし、ピラミッドフェースの頭を巻く。3人が登りきるまで吹きさらしの小テラスで待つのは辛い。寒いし、先行3人の登り方が不明。まあ、自由に登るしかない。ロープ確保の手がかじかんでくるので軍手をはめる。
3ピッチ目(40㍍)は白い岩。フリクションが効き面白いように登れる。4ピッチ目はゴツゴツしたリッジだった気がするが詳しく覚えていない。何故だろう。そして登りきると第2コルだった。
08:00
5ピッチ目(35㍍)。第2コルからいきなり核心の垂壁。「ホールドがたくさんあり・・・難しくもない云々」とガイドブックは説明していたが、はて、どう登るのだろう。しかも、あの坂田さんが苦労しているのだから、いささか不安になってくる。廣岡、坂本氏は最初からA0で登ってゆく。いざ自分の番だが何とかフリーで登りたい。小さなスタンスを拾いながら慎重に登る。ところが、三つ目のヌンチャクを回収する際、どうしても中央稜側のガバに手が届かない。荷物が重いせいか爪先立ちしている左足が限界かも。背後には我々に追いついた猛者2人が待っているし、彼らの見ている前で落ちたくない… 下手なプライドと実力不足のせいでついヌンチャクを握ってしまう。ああ、情けない。「最後ヌンチャク握ったぞ」「もったいないねぇ。もうちょっとなのに」という会話が聞こえたが、仕方ないよ、これが実力なのだから…
垂壁を越えると、高度感抜群のリッジが続いていた。クライミングって、これほど楽しいものなんだ。喜びをかみしめながら、3人の待つマッチ箱を目指す。
08:56
マッチ箱を懸垂下降。実に楽しい。スリリング抜群。もっと、もっと続いて欲しい。そう願いながら降りるのだが、あっという間に降りてしまう。
09:15
6ピッチ目(40㍍)。着地点からコーナークラックを登るが、チラホラ白いものが舞っている。これは何だ?羽虫?何と雪が降り始めたのだった。見上げれば、空模様もドンヨリと怪しい。そういえば、富士山の上にレンズ雲が乗っていた。あれは、やはり天候悪化の兆候なのだろう。そして、いつの間にか富士山も雲に隠れて見えなくなっていた。
さて、先行3人はクラック伝いにゆくが、天邪鬼の小生はdガリー側の小スラブに挑戦。ところが、指先がひっかかるかどうか程度の小さなホールドしかなく、無茶苦茶焦る。気合一発、とにかく登りきる。坂田氏はクラックとスラブが合流した上部でピッチを切った。そして、ここからは枯れ木テラスまでのリッジだ。
10:23
7ピッチ目(45㍍)の枯れ木テラス着。このピッチ前半も、先行3人と微妙に異なるライン取りだった。理由は雪で湿った岩。3人が登りきるのを待っている間、融けた雪が所々小さな水溜りとなりはじめているのだ。嫌らしい感じがしたが、シューズを濡らしたくないので、やや左側の草付きを登ってみる。前のスラブと違いホールドも多く、そう難しくはなかった。
10:30
8ピッチ目(40㍍)。枯れ木テラスでトップ坂田氏をビレイ中、雪が横向きに降り始める。背後には岩の墓場のようなガリーがなぎ落ちており、圧巻。中央稜はここから懸垂下降して取りつくらしい。気持ちを引き締めてラスト・ピッチ。大きな亀裂を越えると、歩けるほどのスラブになり4尾根も最終章。
10:50
4尾根・終了点。猛烈に嬉しい。「感動」という文字が咽もとからわき上がってきそう。坂田、廣岡、坂本さんも笑っている。広いテラスでロープを解き、靴を履きかえる。5時間近く飲まず食わずだったので、身体がエネルギーを欲している。チョコレートとクッキーをほお張り、水をゴクゴク飲む。そして、ここにきて雪が止んでしまい薄日がさしてきた。あれほど急いで、損をした気分だ。
11:56
北岳山頂。皆で記念撮影。
13:00
肩の小屋発。稜線から雨が降り始め、草すべり下降中に土砂降りになる。クライミング中に雨が降らなかったのは本当に僥倖としかいいようがない。山の神様に感謝しつつ下山。膝が痛んだが、最後はスパートして16時のバスに何とか間に合った。
【後記】
1か月前に敗退したリベンジになったわけだが、ビギナーの小生に2回も付き合ってくれ、オールトップを通した坂田氏には感謝してもしきれない。
前回敗退した際もそうだったが、bガリー大滝の取りつきまでが長かった。いざ登攀開始となれば、楽しくて疲れなど感じる暇もないのだが、終了点から北岳頂上までは足が重かった。体力・脚力不足ということだろう。
軽量化最優先というリーダーの指示だったが、「ビバーク中に食ってしまえば平気だろう」という魂胆で色々買い込んでしまった。反省。ただ、皆のザックからも食糧が出てくるわ出てくるわ… とりわけキャベツ丸ごと1個とエリンギ1パックには度肝を抜かれた。まあ、その結果、ビバークとしては贅沢極まりない夕飯となった。
また、ツェルトに対する認識も一変した。これまでツェルトは雪山縦走中に1回使っただけで、何となく頼りない存在だったが、今回は、その価値を痛感した。
よきリーダーと、楽しい仲間に恵まれた登攀だった。皆さん有り難う。