日程: 2006年1月14日(日)
参加者: 土井(L)・廣岡
行程: 本文参照
01:30 菅の台バスセンター駐車場で仮眠。
06:30 起床。予報では氷点下15度。車内はバリバリに凍り、車の窓が開かない。エンジンをかけ、ようやく開閉に成功。オニギリも凍っていて食べるのに苦戦。
09:10 ロープウェイで千畳敷着。雲ひとつない快晴。登山者は我々を含み4人しかいない。千畳敷ホテルの従業員によると、今冬の最低気温は氷点下20度で、カール内の積雪は最大で2㍍。頻発していた雪崩は落ち着いてきたという。
09:50 千畳敷出発。宝剣からの雪崩を避け、大きく迂回しながらカールの底へと降りてゆく。冬の千畳敷は3回目だが、これほど美しく完全無欠な雪景色を見るのは初めて。見渡す限りカールにはトレースが一本しかないのだ。雪崩の跡もゼロ。真っ白なお椀の中を歩いている気分だ。先週6日・7日の大雪と、その間の遭難のせいで入山者は少なかったのだろう。
乗越浄土に向けて伸びていた微かなトレースは、カールを吹く風で見る見るうちに消えてゆき、登りに転じると完全に消えてしまった。
トレースがないということは、八丁坂はラッセル。膝上までズブズブと入ってゆく。オットセイ岩まではサラサラの雪。いくら踏み固めようとしても、アイゼンが雪をつかんでくれない。膝で固めようとしても、すぐに崩れてしまい、一歩前進しては一歩後退。我々のすぐ後方に2人いたが、ラッセルを交代してくれる気配なし。廣岡さんが「先にどうぞ」と譲ったが、「皆さんの後を行きます」と言われる。いかがなものかと思ったが、半ば意地になって登ってゆく。
疲弊し、途中10分間、廣岡氏にトップを交代してもらう。オットセイ岩でトップ復帰。
廣岡さんに休憩を提案したが、必要がないという。驚異の53歳だ。41歳が負けるわけにはいかないので、トップで頑張る。
八丁坂上部は雪が硬く締まっており、蹴りこんだアイゼンが心地よく効く。傾斜はきついが快適きわまりない。乗越直下はアイスバーンと湿った雪が入り混じり、細心の注意が必要だった。
11:25 乗越浄土。日本海から吹きつける寒風を、まともに受ける。顔が痛い。直前まで汗だくだったが、一気に冷える。宝剣山荘は屋根のみが顔を出しており、風除けとして頼りにしていた入り口は完全に埋もれていた。山荘前にテントが1張り幕営してあったが、中で寝ているのだろうか。天狗荘の階段下に避難し、ようやく一服する。風の強さは相変わらずだ。ここで羽毛服を着込む。手袋も厚手のウールとミトンに替え、目出し帽をつける。
11:45 天狗荘出発。ここから中岳は雪面がクラストしていて歩きやすい。快晴だったおかげで道に迷う心配はないが、2年前はガスが湧いて視界ゼロ。そのため、木曽駒を断念した。中岳の西側は切り立った崖になっているため荒天の際は冒険する気になれなかった。
12:33 木曽駒。誰もいない。素晴らしいパノラマだが、はるか遠くの北アルプスには不吉な雲が迫っていた。西穂~奥穂の稜線は、あっという間に雲に飲み込まれ、北穂も間もなく見えなくなってしまった。
12:40 木曽駒を出発。夏道は吹き溜まりの可能性があるため回避。
13:01 中岳に戻る。強風を避けるため風下の伊那前岳側に出て休憩。
13:13 天狗荘に戻る。
13:30 宝剣へ。天狗荘から見た限り、頂上直下は岩が出ていて登れそうな気がする。しかし、二つ目の鎖場に近づくにつれ、昨年3月に単独で登った時と比べて、明らかに雪壁の状態が違うことに気づく。
【昨年】記憶が正しければ、昨年3月19日の宝剣は、スッポリと雪に覆われていた。ただ、トラバース部分が蒼氷となっており、早朝に登頂しようとした2組のパーティーが敗退して戻ってきた。そのため、私は北側の雪壁を直登。頂上直下の雪壁がハングしていたが、ここをピッケルで切り崩して頂上に何とかたどりついたわけである。
【今年】今年の宝剣は前述したように岩の露出が多く、昨年のように雪に覆われていない。簡単に登れるかもしれないと期待を抱かせる光景だ。しかし、実際登ってみると、その露出した岩の上部には大きな雪塊が張り出していた。明らかにハングしており、ロープなしでは越えられそうにない。さらに近づいて観察してみると、雪の塊の表面には風紋が何本も走っていて、複雑な形状を成している。何とも不敵で憎たらしい面構えをした雪である。そして、この雪塊を登った痕跡はなく、トラバース方面にもアイゼンの踏み後はなかった。頂上直下の雪田が、わずかに雪が乱されているぐらいだ。数日間、誰も登っていないのだろう。この障害物の直下は急傾斜の雪面で、
①周囲に支点となるような手頃な岩がなかった
②スタンディングアックスビレーをしたくても、雪の量が少なすぎてピッケルが支点となってくれない
③ボディービレーだけで確保する自信がない
④雪を切り崩すにしては量が多すぎ…
以上、4つの点を考慮し、技術未熟・経験不足という結論のため今回は宝剣を断念した。
廣岡さんには申し訳ないことをしてしまったようで忸怩たる思いだが、リスクを犯してでも登る必要はないと思った。
14:05 乗越浄土から下山
14:40 千畳敷ホテル前着。ホテルまでの最後の登りがこたえた。
総括
おそらく、もっと雪が降れば、宝剣の岩峰もソフトクリームのように雪に覆われ登りやすくなるのだろう。行く手を阻まれた雪塊も、きっと埋もれてしまうものと思われる。同じ冬でも1月と3月では、こうまでも頂の形状が異なるのかと感嘆した。宝剣は登れず残念だったが、良い勉強になった。
(記: 土井)