剣岳・小窓尾根

日程: 2007年5月3日(木) – 5日(土)
参加者: 平野(L)・廣岡・芳野
行程: 第1日目 出発(7:40)-取入口(8:20)-1600m(12:00)-2100mテント場(14:10)
      第2日目 出発(6:00)-懸垂地点(12:00)-テント場(14:30)
      第3日目 出発(5:30)-剣岳・頂上(6:10)-早月小屋(7:30-8:00)-馬場島駐車場(10:40)

5月3日(木)

前夜、所沢駅へ20時集合。連休のため関越自動車道も混んでいるが、何よりも馬場島は遠い。滑川ICまで370km。運転手交代で走る。ICを下りて早月川沿いの道を走ると、道のゲートが閉まっている! 上市へ戻る? 夜中の1時過ぎにそれはないだろう! 平野さんが川原に下りる未舗装道を見つけ、無事馬場島へ。2時過ぎに到着し、横の公園にテントを張って寝た。
駐車場はあまり空きがない。計画書を県警に出しに行ったら、「今年は入山が多い」とのこと。小窓もトレースがバッチリか?快晴のため剣の稜線も見えるし、気分良く出発。白萩川沿いの車道を歩くが、取入口からは川原の雪が繋がっていないため、左手尾根に上がる赤テープに従って赤谷尾根側の高巻き道を行く。踏み跡はあるが心細く、大きく小尾根を乗越し白萩川へ下りる。1時間近くかかったが、その後の川原は雪伝いに進めた。地図にも書き込まれた`雷岩`は、これ、と言われれば「ふ~ん、雷の模様が見えるかな」程度で、感動が薄いのはなぜか残念な気分。そこからアイゼンで雪の詰まったルンゼの急登を登る。尾根に上がると、すでにビールを開けている集団が居た。ぶつけて破裂したのか、と思いつつも、飲みたくなるような暑さとしんどい急登であった。でもその先ずぅ~っと樹林の尾根を登りつづけるのだ。トレースがありがたい。
木がまばらになると1600mの広い台地に出た。池ノ谷を見下ろし早月尾根を見上げ、その奥に剣尾根が大きくそびえている。この急峻であり山の深さを感じさせる眺めには、登る者を惹きつける独特な雰囲気がある。久世さんは今頃どこを歩いているのだろう、などと話しつつ大休止。予定では初日の宿泊地なのだが、早いので先に進む。1900mも張れるが通過、2100mピークへ。すでにテントが4張りあったので一段下がったあたりをテント場とする。目の前にニードルが立ちはだかり、なかなかの眺め。明日はあれをどう越えるのだろう。
16時頃雷と雨。すぐに止んだがあたりはガスに覆われた。早くついたのでお酒も早くから飲み始め、1人100gの肉!のトン汁でお腹も満足すると、まだ明るい18時には昨夜の寝不足から一気に眠りについてしまった。

5月4日(金)

今日もいい天気。気持ち良く出発したが、全てのテントが出た後だった。すぐに急な雪壁となる。ピッケルを確実に指し、最後は木を足がかりにしてソロリと体重を移動し、上部へ這い上がる。いきなりイイじゃない。昨日までと違い、単なる稜線歩きじゃないヨ、とジャブを受けた気分。慣れない人がいる場合にはザイルが欲しいところ。慎重にゆっくりと進む。ニードルは池ノ谷側を巻き、リッジの通り右から回り込むと、待ちの人だかり。立ちはだかった岩を越す為に、右側壁にある残置シュリンゲを使って、少し懸垂し回り込んでいるようだ。長引きそうなのでパンをかじっていたら、平野さんが左のバンドを使い回り込んで上部へ出られる道を探ってきた。さっそくそちらを行く。上部からはキレイに先へ繋がっていた。2パーティを追い越したことになる。ドームとのコルへ下り池ノ谷側を登る時には、そこにいた全パーティがバラバラの道をとった。どのパーティも「トレースをついていけばいい」とは思っていない。他に行ける道があれば探るのが当たり前だし、先頭を歩く`面白さ`も知っている。パーティによりルート取りが違い、そのあたりがまた、おもしろい。稜線に上がりマッチ箱の岩のリッジは、ザイル・岩でのアイゼンワークが問われる1ピッチだった。難しくはないが、慣れない人がいると時間がかかる。とにかく待たされて寒かった。そこを過ぎると、登りつつ下りもある雪稜歩きが長く続く。天気がいいため、2650mピークや小窓の頭への登るたびに、小窓ノ王の岸壁が目の前に圧倒的な強さを持って迫ってきた。青い空・雪の白・岩の荒々しさ・スケールの大きさ、これが先人たちを魅了した剣なんだ、これだから剣に来るんだ。心に沸に立つものを感じ、春の剣を存分に味わっていた。
池ノ谷左又の上部で先頭のガイドパーティが懸垂準備。「クライムダウンしよう」「いやウチは懸垂を待とう」おたくらどうする? と、ここまで来ると朝から同じペースで歩いてきたので、足の揃ったガイドパーティ・大阪4人パーティ・ザックカバーが赤青黄色の信号パーティ・みんな顔馴染みで、お互いの動向を窺う。信号パーティがノーザイルでクライムダウンを始める。私達はザイルをつけてクラムダウン。でもその先の三ノ窓を目指すトラバースのための残置ピンが少ないため、空き待ちで混雑し苛立っていた。そのままクライムダウンを続けた信号パーティの一人が、その時滑った。一瞬にして全く見えないところまで滑っていってしまった。仲間の声が池ノ谷にこだまする・・・ 静寂の後、先頭に居たガイドが、手で大きくマルの合図。大丈夫らしい。その場に居た皆が胸を撫で下ろした。パーティの男性が助けに下り、残った女性を大阪パーティが自分達のザイルに繋いで三ノ窓へ向う。信号パーティ3人が集まり無事を確認しあっている中、私も滑ってしまった。(ザイルをしていたのですぐに止めてもらったが)反省しきり。三ノ窓からは、トレースのついた池ノ谷ガリーをひたすら登る。登る。の・ぼ・る。ここまで歩いてきた身体にこの登りは辛かった。乗越しにたどり着くと、ナント久世さんがテントから出てきた。再会に握手しお互いの健闘を称え、池ノ谷乗越しを今夜の宿泊地と決める。
池ノ谷乗越しは、雪洞有りテントも5張りほどになり大混雑状態。斜面をかなり崩して整地していたら、休憩していた人のピッケルを埋めてしまい、また掘り返すハプニング。でもテントに入って落ち着くと、残り少ないアルコール・久世さんとの話しに花が咲いて、時間があっという間に過ぎていった。池ノ谷乗越しは狭いので、トイレに大変困った。

5月5日(土)

今日下山可能と分かっていても、車での長い帰りを思えば早立ちにこしたことは無く、久世さんも一緒に出発。周りのどのパーティも動く気配はなくのんびりで、一番の出発となった。まだ日が昇り切らないガスの中トレース通りに進むが、右手へ緩やかに登る剣尾根のトレースに入ってしまい、久世さんから注意を受ける。そこの稜線通しは、左手へかなり下降する方だ。回り込むと、昨日まで一緒だったガイドパーティ・大阪パーティがテント撤収の最中だった。そこは平らであと2張りは張れる広さ、いいテン場だ。一緒に歩んだ中間達に、親しみを込めて声を掛け、通り過ぎる。
ひと登りで頂上だった。頂上に立つとやっぱり満足感と共に、疲れが飛んでしまう気がする。ガスは晴れず景色の見えないのが非常に残念ではあるが、下りに注意しましょう、と室堂へ下る久世さんとも分かれる。ルートは狭い岩と雪のミックスから少し緊張するルンゼへ。アイゼンが良く効くので、一歩づつ確実に下る。出ると、視界は広がるが何もない急な下り、続いて池ノ谷側の大トラバースとなる。キレイなトレースが出来てはいるが、すれ違い出来ない狭さで気が抜けない。渡り切ったところで名古屋山岳会の仲間とすれ違った。今年2年目の子が危なげなく元気に歩いているのを見て、嬉しかった。ガンバレ。途中1箇所急な雪壁では、懸垂用のビナもあったのでそれを利用して懸垂。早月小屋からは、ダラダラと長い下りになる。アイゼンを外し滑りながら下るが、廣岡さんは滑るのに慣れていないようで、一歩一歩確かめて下る。地面が現れいい加減下るのがイヤになった頃、馬場島が見えた。雪の無い松尾平を過ぎるとカタクリの群落、そしてポンッ、と馬場島に下りた。タクシーの客引きを縫って車まですぐ。長い山行が終わった。
暑い。そして新緑の公園にいると、自分もザックも汚いのがクローズアップされたみたいだ。ザックの中身を全部駐車場の空き地に広げて乾かす。テントもパリパリになったし、馬場島荘のお風呂に入って身体もサッパリした。次は、腹ペコ状態を満たすため滑川の町へ走る。豪遊したいところだが、お店が無い。旬であるホタルイカの旗に期待も膨らむが、走り回ってやっと入った店は、待たせたあげく量も少なく、ガックリ・トホホ。言葉少なに店を出た。とにかく帰途につく。日常に、一般人に戻る安堵感と寂しさを味わう気だるい運転、そして渋滞は長かった。

(記: 芳野)

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