日時:2007年5月3日(木) – 5日(土)
山域: 剱岳剱尾根(北アルプス)
参加者: 久世
行程: 本文参照
この報告を書いているのは、実は2008年5月6日です。ちょうど山行の一年後という事になります。
なぜ今頃書いているのかというと、普段報告書など書かない故、すっかり忘れていたのですが、今年のGW後半の緊急連絡先を仰せつかって、皆のGWの山行を思いながら、
「はて?去年のGWは何してたんかいなー」と思い出し、山に行けなくて暇なので、では書こうと思い立った次第です。
しかしこの一年は、様々な事がありました。やはり十字峡での滑落が最大の事で、まだ完治していない為、GWも自宅にいて暇している訳で、それでこのような駄文を書いているのです。
さて、本題の報告に進みますが、なにせ一年後に書いてます、細かな間違いは許してください。
この山行に遡ること、2004年のGWに剱尾根に、今回と同じく単独にて挑んだのですが、尾根の下半部だけを登攀した結果に終わり、いつかやり残した上半部をトレースしたいと思っていました。翌年の5月に子供を授かったこともあり、2年間は行く機会に恵まれませんでしたが、今回再トライが出来そうなので同行者を募集しましたが、日頃の行状に問題が有るためか、またも単独となる。
5月3日(木)
前夜、三田平まで一緒の友人と共に、中央自動車道を走り、扇沢駅には深夜到着。面倒なので車の中で仮眠。
6時半の始発のトロリーバスで扇沢を出発。黒部ダムより先も一番電車ながら、今回も黒部平にて、ロープウエイを30分程度出発待ち、雄大な景色を見て朝飯を食べる時間と割り切れば仕方ない。室堂には9時頃到着、富山県警に計画書を提出し、とても良い天気の中を出発、周りは観光客だらけ。雷鳥平を過ぎ、別山乗越まで一踏ん張りし、剱御前小屋もなかなかの賑わいである。少し下り三田平で友人と別れ、剱沢をさらに下る。今回も雪質悪く、思うように下れないが、何とか長次郎出合まで辿り着き、長次郎谷をまたも独りで登り詰める事となる。昼過ぎで気温も高く、思った通り雪質はひどく、またも辛いラッセルが始まった。前回もそうだが、重たい荷物を背負い、独りでラッセル(時期的にもそんなに深いラッセルではなく、ただ踏み固まらないのである)の際に、時々足が雪に深くハマル時があり、此の時は、周りに人がいない事もあり、汚い言葉をつい叫んでしまう。
長次郎谷を半分くらい詰めた辺りで、下を見ると出合付近は10名くらいのスキーヤーが遊んでいて、その他に3-4名くらいがどうも谷を登ってくるらしい。
こうなると先程まで悪態ついていたのは、どこへやら、追い付かれたくないので、俄然、頑張って登ってしまう。なんて単細胞なんだ・・・。
そんなこんなで頑張ったが、池の谷乗越につく少し前から、辺り一面ガスってしまい、詰めの処で、ルートを確認しているとすぐ下に迫ってきて、辛うじて先に着くことが出来、ホッとしていると、そのパーティの人にラッセルを感謝された。
単細胞はそれで気分がよくなり、ガスの中、ピッケル一本でテント場を整地し、17時半頃テントにもぐりこむ。この日、池の谷乗越にはこの2組しかいなくて、もう一組は雪洞を掘ってそこで寝てました。
ガスが出てて、嫌な感じはあったが、翌日のことは楽観的に考え、疲れもあり、さっさと就寝。
5月4日(金)
4時起床のはずが、4時40分あわてて飛び起きる。6時過ぎにBCを出発、池の谷ガリー上部が早朝にも拘らず締っていない、慎重に三の窓まで下りてみると、チンネなどの岩壁も黒々でなく、少し雪が付着している。本当は剱尾根を、下から登ろうと思っていたのだが、岩への着雪を見て、あっさり放棄、やり残した上半部を登ることとする。
三の窓から池の谷尾根を下りながら回りこみ、少し登り返すとR2の取り付きとなる。
R2は前回の時に、懸垂下降で降りたように、かなりの急傾斜で、その上雪質が悪いのでかなり強くキックステップを叩き込む。距離は無いのだが、一歩一歩に時間がかかり、コルBに這い上がったのは8時頃になっていた。
前回はこのコルBで登攀を終了してしまったが、今回はその雪辱戦(かなり妥協があるが)、前回諦めた際どい岩稜に取り付く。当然トレースは無く、また良いビレー点もなくロープは出さず、落ちれない重圧と向き合い、慎重に岩を登り、尾根上に這い出る。
「いやー絶景かなー」景色は勿論、頂上や早月尾根、平野・芳野・廣岡さんが登っているであろう小窓尾根にいる人達がはっきり見渡せる。
ただ尾根上に出たが、下がすっぱり切れ落ちている、なにせ中央ルンゼや奥壁の上を登っているのである。何度も尾根の右側稜をトラバース気味に登るので、どうしても力が入ってしまう。そのうちコルAにつき、ここではじめて休憩をとる、ちょうど尾根の右面から左面に回りこむ場所に当たり、ゆっくり座ることができる処だ。
コルAから少し登り、フェース状の岩場と急な雪壁を登ると、剱尾根の頭に飛び出す。
剱尾根の頭から長次郎の頭は、すぐ目の前で、簡単な一登りで、縦走路に飛び出すことが出来た。おもわず「やったー」と叫んでしまった。頂上もすぐ近く、そこにいた人たちにおかしな人だと思われたに違いないだろう、しかし本当はうれしさよりも、安堵感からおもわず声が出てしまったのだろう。
10時頃に登攀を終了し、そこからすぐのBCに戻ると、八ツ峰主稜にも沢山の人影が見られるが、ガイド登山のパーティが多いらしかった、よく雑誌で見かける有名なガイドが何人もいて、お客は中・高年(ほとんどが高年)で占められていた。
八ッ峰主稜もピッケルワークも覚束無い様な素人でも、ガイドがいれば登れる事を知り、ちょっとガックリしてしまいました。
それは兎も角、小窓尾根組を待つだけなので、小窓尾根方向を見ていると何パーティも登っており、小窓の王の所での下降で渋滞していたので、日差しも強いしテントの中で、少し昼寝してしまう。
昼頃、テントから這い出て小窓尾根方面を見ると、小窓の王の下降地点は、相変わらずの渋滞であったが、その中の1パーティが確保なしでクライムダウンしていて、ルートも若干逸れ気味であったので、「落ちるなよ」と思って眺めていると、一人が滑落してしまった。落ちた先が池の谷乗越からは見えず、心配したがその後、芳野さんから無事だったことを聞く。
なんとなく小窓尾根組が判るような、判らないような感じで待っていると、芳野さんが登ってきて、続いて平野さん、廣岡さんも池の谷乗越に到着した。
滑落事故を見た直後だったので、合流できて本当にうれしかったです。
私のテントの横を整地し、そこに小窓尾根組のテントを張ることが出来、夕飯も一緒に食べることが叶いました(粗食の久世が、小窓尾根組の皆さんに施しを受けただけでしたが・・・感謝してます)。
お互い、後は頂上を踏んで下山するだけなので、会話も楽しく過ごす事が出来ました。
5月5日(土)
今日は皆で頂上まで向かうことが出来た。ガスが出ていて剱尾根を望むことは叶わなかったが、頂上に着いて皆で握手すると、剱尾根が見えなかった事など、もうどうでも良くなった。
名残おしい頂上から、少し下ったところで早月尾根を下る平野・廣岡・芳野さんと別れる。
私は車の関係で室堂に下ることとなる、おもったより雪が締っていて、心配した前剣の下りも難なく通過できた。1ピッチかからず三田平まで到着、前回も頂上経由で降れば良かったと悔やむ。
天気もピーカンになってきて、三田平で友人と合流し、のんびり春の剣を満喫しながら室堂まで下りました。
今度また、剱尾根を一気に登ろうと思います。
何年越しの宿題にしないようにしないと・・・(そんな事いっても、今年のGWは家にいますが)。
(記: 久世)