日程: 2025年4月12日(土)
山域: 大室山・畦ヶ丸山・菰釣山
参加者: 大塚・齋木・林・他
行程: 新茅山荘(08:27) – 烏尾山(12:35) – 烏尾山荘(13:01) – 新茅山荘(13:39/13:54) – モミソ沢大滝(15:30)- 新茅山荘(16:13)
朝8時半、目覚めたばかりの丹沢の新緑は暖かい日差しに照らされ、春らしい若々しさに溢れていた。私たちは朝の光を浴びて新茅山荘の駐車場へと静かに車を進める。丹沢国定公園を抜ける林道は、まるで時間を巻き戻す装置のように、現代の喧騒を一つひとつ剥ぎ取っていった。荒れた道に揺られながら、私たちの心もまた、少しずつ山へと還っていった。
新芽ノ沢に足を踏み入れると、すぐに現れたのはF1、F2の滝。冷ややかな水音が耳に心地よく響く。岩肌を濡らす流れに抗うように、私たちはロープを手に慎重に登っていく。しばらく進めば、沢は静かな歩行を許し、苔むす岩と澄んだ水の流れが、しっとりとした癒しをもたらしてくれた。
F5の大滝は、高さ15メートルの壁のように立ちはだかっていた。苔に覆われたその表面は、さながら緑の衣を纏った巨人のようであった。足元は滑りやすく、タワシで苔をこすり落としながら、一歩ずつ重心を確かめ、体を引き上げていく。緊張の先に広がる沢の静謐さが、挑戦の報いであるかのように、心を満たした。

詰めの道はやがてザレた斜面へと変わり、息を切らせながら烏尾山を目指す。背中に陽光を浴びて尾根を直登する頃には、私たちの足取りも幾分重くなっていた。それでも山頂に立った時、丹沢の峰々がその威容をもって迎えてくれた。幾重にも重なる山波が、どこまでも続く空の下で静かに佇んでいた。
一息ついた後、登山道を使って新茅山荘へ戻る。昼を過ぎて空は幾分曇り始めていたが、もう一本、モミソ沢を登ることにした。身体の疲れがうっすらと残っていたが、沢が呼んでいた。
モミソ沢は、新芽ノ沢とはまるで異なる表情をしていた。薄暗いゴルジュが続き、空は細く切り取られた帯のように頭上に浮かんでいた。水の流れが岩を削り、岩が静かにその流れを導く。その合間を縫うように、私たちは沢を登る。狭い岩間をチムニーのようにすり抜け、静かに進む。時おり聞こえるのは、岩に弾かれた水滴の音のみ。

この沢にもまた大滝があった。だが水は枯れ、岩だけが静かにそこにいた。ロープを出し、ほぼフリーに近い登攀で滝を越える。最後の登りを終え、左岸の尾根を上がると、懸垂岩を目指して下山へ。ザイルに身を預けて懸垂下降を終えたとき、日が傾き始めていた。
16時過ぎ、全行程を無事に終え、車へと戻る。装備を脱ぎ、汗を流しに「はだの富士見の湯」へ。湯のぬくもりと、食事のやさしさが、心身に沁み渡る。
今日という一日は、まるで一編の短編小説のようだった。登攀と静寂、緊張と安堵、そして苔と水と岩。コンパクトながらも、沢登りのすべてが詰まった、豊かな時間だった。入渓点が近く、二本登れば一日がちょうど満ちる。新芽ノ沢とモミソ沢は、そんな「ちょうど良い」沢だった。
なお、ヒルの多い丹沢だが、「ヒルさがりのジョニー」のおかげで一度も食われることはなかった。心強い道連れである。

(記: 大塚)