日程: 2013年5月4日(土) – 5日(日)
山域: 爺ヶ岳・鹿島槍(北アルプス)
参加者: 土井
行程:
第1日目:
自宅(4:20) – 信濃大町(10:06/10:30) – 扇沢(11:05) – 爺ガ岳南尾根取付1350m(11:35) – ジャンクションピーク2380m(15:05)
※装備19kg(水3.5L)
第2日目:
起床(4:14) – 出発(5:35) – 爺ガ岳南峰(7:03) – 冷池山荘(8:04/8:07) – 布引山(9:10/9:15) – 鹿島槍(9:50/10:15) – 冷池山荘(11:10/11:36) – 爺ガ岳南峰(13:05) – JPテン場(13:35/14:20)- 下山(16:10)
4日(土) 晴れ後雪、13pmから視界悪化、15pmJPはホワイトアウト 風強し
5日(日) 快晴 ほぼ無風
全身の細胞が酸素を求めて騒ぐ。懸命に、機械的に、足を前に出す。「そろそろガス欠だよ」。そう思った矢先、急斜面が緩くなった。アゴを上げると、視界がとらえたのは真っ白い雪のピーク上で写真を撮りあう男女8人。次いで、道標。テントを出てから4時間10分、何とか鹿島槍ガ岳・南峰に着いた。先着した彼らの視線が気になったが、恥も外聞もなく大の字になってしまった。
眼下には東尾根が優しく裾を広げ、2組のクライマーが上部雪稜にトレースをつけている。西の剣、北の五竜は美しく雪をまとい、南を振り返れば鳴沢岳、スバリ岳、針ノ木岳が春霞にひしめくという素晴らしさ。ジャンクションピークから長駆してきた甲斐があったというものだ。
今日は、昨日の吹雪とホワイトアウトが嘘のように晴れ渡っている。鉄板の上で焼かれるような陽気とでもいうのだろうか。こんな日は、本当は頂上でのんびりしたい。シュラフカバーだってあるのだから昼寝だってできる。テントに戻って、もう1泊できれば、なおさらいい。でも、会社勤めの宿命、どうしても今日中に下山しないといけない。
時間が気になるが、まずは腹ごしらえ。清涼飲料水をガブ飲みして、ピーナッツサンドに食らいつく。ガツガツ、2口でなくなった。次は、後生大事に担いできたオレンジ2個の出番。自然の甘味と、ほのかな酸っぱさが口の中で弾け、もう最高。あ~、一息ついた。人間、腹が満たされると理性が蘇るらしく、ただ一人、飯をむさぼり食べていることに後ろめたさを感じる。
下りは辛かった。4日前の仙丈・甲斐駒山行で両足の踵の皮がベロリと剥がれたままになっている。その踵がズキズキと痛む。たまらず冷池山荘で大休止。山荘前のベンチにどっかり座って靴を脱ぐと、踵は真っ赤に腫れブヨブヨ。消毒して滅菌ガーゼを張った。
ふと隣を見ると、年輩の夫婦がラーメンで食事中だ。「あなた、麺が固いかしら。気圧のせいね、いやあね」と気遣う奥さん。「いや、おいしいよ」と言葉少なげに麺をすする夫。2人の醸し出す温かい空間の傍らで、汚い足をさらしているとは無粋の極み。そそくさと治療を済ませ、再出発した。
爺ガ岳南峰へ300㍍登り返し、鹿島槍を振り返った。ちょっと大げさかもしれないが、北股本谷から一気に高度を上げる東壁がヒマラヤ襞を思わせ、美しい。いつまでも見ていたいが、たっぷり汗をかいた身体に風が冷たく感じた。双耳峰と東壁を脳裏に納め、重くなった足を引きずりジャンクションピークへ下った。
テントを撤収し、南尾根を下りる最中、雷のような音が響く。対岸の稜線直下で雪崩が発生しているのだ。デブリが猛烈な勢いでを谷筋を滑り落ちていく様は、怖くもあり圧巻でもある。「くわばら、くわばら。この季節は安全な尾根を登降するに限る。」そんなことを考えながら、長い長い尾根を扇沢へ下りた。
今年のGWは、ついに一回もロープを出すような山登りはできなかった。GW前半は大雪のため上高地を逃げ出し、後半は単独行のため安全運転で鹿島槍。一緒に登ってくれる仲間の大切さを改めて実感した。
(記: 土井)